講師は元運転士! 「鉄ちゃん」記者が鉄道員体験をしてみると‥
「鉄ちゃん」を自認する記者(32)。子どもの頃の夢は、故郷の米子市を走る特急「やくも」の運転士で、鉄道の運転ゲームは大の得意です。ある日、職場の先輩から、廃線になった旧三江線の石見川本駅(島根県川本町)の本物の施設や設備を使って、憧れの鉄道員の仕事が体験できると聞きました。喜び勇んで訪ねると‥。(土井和樹)
廃線になった旧三江線の石見川本駅、今にも列車が入ってきそう‥
参加したのは、地元のU・Iターン者たちが石見エリアの魅力を伝えようと企画したイベントシリーズ「いわみん」のプログラム。訪れた旧石見川本駅は、島根中央信用金庫が駅舎を店舗に使っていました。でも中に入り、改札を通ると、ホームはほぼ駅が現役だった頃のまま。今にも列車が入ってきそうで、わくわくしてきました。
講師は大ベテランの元JR西日本社員
迎えてくださったのは、今回の講師で元JR西日本社員の那須野謙さん(68)です。那須野さんは1972年、三江線粕淵駅で鉄道員人生をスタートし、50年近くの間、山陰線や三江線で運転士を務めた大ベテラン。ディーゼル機関車DD51がけん引する浜田発着の寝台特急「出雲」や、JR化後に登場したキハ187系の特急、三江線最終日の最後の回送列車…。これら全てのハンドルを握ったと聞き、既に大興奮です。
手信号に挑戦 緑と赤の旗を振る
いよいよ、プログラムが始まりました。線路の分かれ目で向きを切り替える分岐器の近くで、車両同士が接触しないギリギリの地点を示す「車両接触限界標識」や、駅(停車場)の中央を示すプレートなど、構内の標識について復習しました。そして学んだのは、手信号の扱い方。緑の旗は「進め」、赤の旗は「止まれ」を意味し、動きの組み合わせで列車を誘導します。
「片方の旗しか見えないようにすることが大事」と那須野さん。両方見えてしまうと、運転士が混乱するからです。ただ、旗を素早く絞ったり、広げたりするのは、やってみると難しい…。「停止位置への誘導」「後退」「連結」など基本的な旗の振り方を教わりましたが、悪戦苦闘。自分の不器用さを痛感しました。実際には社内資格が必要だそうです。
やってみたかった分岐器の操作「密着よし!」
次は、一度はやってみたかった分岐器の操作です。ホームを降り、線路脇を歩いて分岐器のある場所へ。しかし、鉄のレールを動かすのは予想以上に力が必要でした。助けてもらい、ようやく動きました。うーん、情けない。ちなみに、レールの間に生きたカメが挟まってしまい、切り替わらなくなることもあるんだとか。「密着よし!」。レールがくっついているのを近寄って確認し、指を指しながらそう喚呼すると、業務完了です。
たたき込まれた安全意識
安全意識もたたき込まれました。鉄道員は「かもしれない」が鉄則。常時ヘルメットを着用しました。線路を渡る時も正面と右左を指で指して確認するルールを守ります。知らないことの多さに、「鉄ちゃん」としてのプライドは、見事にへし折られました。
記者のように鉄道員体験を望む人は多かったよう。いわみんのこのプログラムはもういっぱいだそうです。貴重な体験でした。今は列車がやって来ない石見川本駅。しかし、往時のにぎわいを脳裏に浮かべ、運行を支えた大勢の鉄道員のかっこよさに思いをはせることができました。「鉄道員、やっぱすごい」