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大きなテーマだからこそフラットに、かつ気軽に語らいたい─004号発刊記念イベント@本屋アンラーン

2023年12月16日(土)に広島県福山市で開催されたトークイベントについて、百年会議会員の河原和也さんがレポートを書いてくださいました!

広島県福山市の本屋アンラーンにて、『みんなでつくる中国山地004号』の発刊記念トークイベントが開催されました。毎年恒例のイベントで、私は今回が2度目の参加です。

私事ながら去年の今頃はちょうど福山に住んでおり、会社を辞めて邑南町に移住する直前というタイミングでした。前回の003号は特に移住を考えるきっかけになった号でもあり、アンラーンのイベントで大きく背中を押されたという意味で、思い出深い場所でもあります。

イベントは本屋アンラーン店主の田中典晶さんが司会となり、中国山地事務局の森田一平さん、会員の中尾圭さんに004号について聞いていくという形で進んでいきました。

最初に森田さんから中国山地という本についてこれまでの経緯が語られました。自分のことに重ねながら、色んなことを思い出します。世の中が、働き方が行き詰って、暮らしがどんどん手から離れていくような気がしていた当時の私。そんな中で中国山地に何かがあるような感覚がありました。003号の問い「ここで、食っていけるの?」は、当時の私にとって切実な問いで、それは今も変わっていません。ですが、実際に移住したことによってそれはもっと具体的かつ個別的な問いになりました。その一つが今回の「さて、どう住む?」というテーマに繋がっているような気がしています。

話は004号の内容に入っていきます。冒頭は森田さんが各地の取り組みを取材しながら、「あなたにとっての家とは?」を尋ねて回ったルポ。「どう生きるか」「何をしたいか」を実現するための「箱」としての家、地域を再生させるための家、自分の理想を叶えるための家、外に向かって開き、シェアするための家など、従来の家の常識を覆す多様な事例に、今までいかに「家」についての考え方が固定されていたかを自覚させられます。

司会の田中さんが注目したのは、三次市・ブルーリバーのおじいさんたちが小学校を守るために無償で家を建てた活動を取り上げた記事でした。ここで森田さんが自分の感情をしっかり書き込んでいる点が、普通の新聞記事では決して出てくることのない、書き手の心の動きが表現されている箇所で、印象的だといいます。取材者であり当事者でもあるという中国山地の書き手たちのスタンス(ひいてはメディアとしての立ち位置)が現れているようで、興味深い点だなと思いました。

さらに話はいろんなところに及びます。例えば表紙のキャッチコピーをめぐる話。編集会議の最終段階、「さあ!どう住む?」でほぼ決まりかけていた案が、中尾さんの感じた、「ちょっと圧が強いのではないか」という違和感を尊重して「さて、どう住む?」に変更されました。たった一文字だけれど、それが結果として読者に寄り添う形になったといいます。

実は私もその現場に居合わせていたので、そうやって一人一人の小さな違和感を大事にするところが「みんなでつくる」ということなのかと納得した覚えがあります。特に「家」ということになると、それぞれの人が異なる事情を抱えていて、しかもその一つ一つがお金や人間関係と絡んで複雑になりがちです。中国山地には様々な事例があって、うまくいっているように見えることも沢山あるけれど、それが答えかというとあくまで一つの事例でしかない。この本の役割の一つは、「常識を疑」い、違和感を言語化することによってそれぞれが考えるきっかけを作ることなのかもしれません。

「家は一生で一番大きな買い物」というように、家というのは資本主義のど真ん中にある大きなトピックです。それなのに家についての語りはどこか固定化されていて、考える余地がないようにも思えます。つまり「ローンを組んで新築を買って、一生かけて働いて返していく」というスタイルです。私自身もこうした考え方を内面化していたところがあって、家を手に入れるということは後戻りのできないことであるかのように捉えていました。

果たして本当にそんな選択肢しかないのか?004号を読むと、「家の常識」は大きく覆ります。お客さんも様々な方がいらっしゃいました。場所が福山ということもあり、備後イグサと中継ぎ表について詳しい方や、現役の不動産会社の方、また今まさに親の古民家を抱えていて悩んでいる方など、家に関する話は尽きることなく続きました。

改めて、家の話はみんなが切実に抱える悩みでした。私自身も、今までいかに一面的な価値観に縛られていたかを実感しました。家も働き方も人生も、大きなテーマだからこそフラットに、かつ気軽に語り合っていけたらいいなと思います。


本屋アンラーンさんのFacebookより


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