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借り物競争

※これは、数年前に書いた記事を再掲したものです。

先日、息子の通っている学童の運動会が開催された。

息子も今年で在所最後ということで気合のこもった力走を見せていた。
学童の運動会は、学校のそれとはちょっと違って我々が子供の頃の古き良き昔ながらの運動会を髣髴とさせる。

最近の学校の運動会というのは結構スマートなもんで、オレが子供の頃のようにデカイ声を張り上げ、旗を振ったりして応援する親の姿というのは稀で、基本的に親は運動会を観覧しているような感じ。

無論、親の参加する競技はあるものの『参加すればいいんだろう』的な淡々としたものだ。

それに比べて、学童はアツい。
子も本気なら親も本気だ。
親の競技もわざわざ親だけが集まり優勝のために練習をしたりする。
応援も父母が率先して前に出て大声を張り上げる。

どちらがイイというのはないが後者は懐かしさを感じる。

あ~懐かしいな~。
あの頃、どの競技が一番好きだったかな~。
オレは足が遅かったから、どちらかっていうと綱引きとか騎馬戦とかが楽しかったな。
親の競技も好きだったな~。

..........あっ、そういえば昔、借り物競争ってのあったな。
知らない人もいるかもしれないので一応説明を。

競技者はかけっこと同じようにスタートラインに一列に並びよ~い、ドン!と同時に一斉に駆け出す。
んで、途中で紙を拾いその紙に書いてあるモノをグラウンドのどこからか借りてこなくてはならない.....。
例えば、『佐藤さんの帽子』と書いてあれば、保護者席や児童に声をかけて

『佐藤さん居ますか~!?
 苗字が佐藤さんで帽子お持ちの方いますか~!?』

ってな具合だ。
んで、その人の帽子を借りてゴールに向かう。

これがまた面白くて。
通常であれば、ライン引きとか紅白帽とか、お箸とか。
その場にありそうなモノを書く。

オレの通っていた小学校では各クラスの児童が紙を書いてそれを運動会委員の連中が取捨選択してトンデモナイものは省くようにして、その中でも選りすぐられたモノが登場するようになっていた。

つまり、そこそこイイトコを付いた笑えるモノが選ばれるわけだ。
借り物競争は大人競技だから、ちょっと面白いほうがイイわけ。

今でも忘れもしない小学校5年の運動会。
グラウンド全体を失笑?いや、個人的にはハラがエグれるかと思うくらい笑ったんだが。
運動会委員の厳しい目をすり抜けた奇跡のお題があった。

たしか、その時はお昼明け一発目の競技だったと思う。
メシを食って眠くなった頭を覚ましてやろうという運動会委員の意図が見えるタイムスケジュールだった。
各地区から代表のお父さんが5人ずつ走り競技はスタートした。

相変わらずハズさない感じで、暖かい笑いが会場全体を包んでいた。

『すいませ~~ん!卵焼き!
 誰かお弁当の卵焼き余ってる人いねぇ~のげ!?(茨城弁)』

『婦人用のサンダルだってよ~?誰か、サンダルはいでる人いっけ!?』

といった感じ。
競技は順調に進み忘れもしない同じ地区に高橋君のお父さんの番が来た。

『がんばれ~~!!高橋さ~~ん!』

『高橋のとうちゃ~ん!』

声援が飛ぶ。

『よ~~~い......』

パ~~ッン!!

一斉にお父さん達が猛ダッシュ。
そして、紙の置いてあるポイントまで、ほぼ同時にたどり着いた。

そして、高橋の父さんが紙を掴む。
その時、神が舞い降りた........。

紙を持ち上げ、お題を読む高橋の父さんの顔が歪んだ......

『ブルーハワイ』........

そう。高橋の父さんの掴んだ紙には紛れもなくそう書かれていた......

(高橋父さん)
『お母ちゃ~~ん!お母ちゃ~~ん!ブルーハワイって書いであんぞ!ブルーハワイあっけ~??ブルーハワイ~。つか、ブルーハワイってなんだっペ~!?』

(地区の皆様)
『高橋さん。ブルーハワイって書いであんのげ!?ブルーハワイっつったらカキ氷だっぺよ~!そんなん、あんめよ!ココに!』

(地区の皆様)
『違~べよ!ブルーハワイっつったらカクテルだっぺよ!!カキ氷じゃあんめよ!』

(高橋父さん)
『ねぇっつったってしゃ~ねぇ~べよ~。持っってこぉ~って書いであんだから~。持ってがないと、負けちゃうでしょうよ~。』

(地区の皆様)
『なんだよ~、高橋さん。なんで、よりによってそんなの引いちゃうんだぁ~?ココにカクテルもカキ氷も無いでしょう~よ』

(地区の皆様のひとり)
『あっ!?イイこと思いついちゃったよ!』

(地区の皆様)
『なになに?』

(地区の皆様のひとり)
『そしたら、あそこの地区の高木さんがアレ、え~っと、なんか喫茶店やってっぺよ!え~っとなんだっけな?』

(地区の皆様)
『...........ブルーノート......喫茶ブルーノート!ブルーノートでしょうよ!ブルーハワイじゃねぇ~べよ!!』

(地区の皆様)
『だから、ブルーハワイはどうしても無いんで、ブルーノートの店主ってことでどうですか?って先生にお願いするしかあんめよ!』

(地区の皆様)
『う~~ん.....。まぁ、そんあ時間かけても無いもんは無いから仕方ないね。じゃ、高木さん連れてくっぺ!』

もう~、このやり取りを聞いていたオレはハラが痛くてハラが痛くて。
汗だくになるまで笑わせて頂いたことを覚えている。

この後、高橋さんと高木さんは二人で走ってゴールし
先生に説明していたわけだが、その様はそれはそれは気の毒な様だった。

『ブルーハワイ』と書いたどこぞの誰かに感謝したい。

それは遠い昔の古き良き思い出である。

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