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[Special Topic]新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ジャーナルトピック

[Special Topic]新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ジャーナルトピック
岩田健太郎 Kentaro Iwata
神戸大学大学院医学研究科 微生物感染症学講座感染治療学教授


 新型コロナウイルス感染(COVID—19)の診療や感染対策などに役に立ちそうな文献をここに紹介する.選択は「役に立ちそう」という基準で筆者が独自に選考した.もし有用な論文を紹介しそびれていたら申し訳ない.本稿をまとめるにあたり,主に専門家たちのSNSでの発信,文献紹介が大いに参考になった.ここでは各氏の名前をいちいちすべて挙げる余裕はないが,多忙ななか,文献を読み込み,紹介,発信していただいているすべての専門家そのほかの皆様に心からこの場を借りて御礼申し上げます.本稿執筆は4月9日に行われた(下の娘の小学校入学式のために集中講義を休講にしていたが,入学式が中止になったのでぽっかり空いた数時間でまとめた……涙).

COVID—19による嗅覚喪失

 COVID—19感染により,嗅覚や味覚の異常,喪失が起きることが知られるようになった.もちろん,嗅覚味覚の異常は多種多様な疾患で起こりうるが,「急性発症」の嗅覚喪失は病歴的におかしい.現状の事前確率の高さを考えれば,真っ先にCOVID—19を考えるべき,とすら言えるかもしれない.
 “JAMA Otolaryngol Head Neck Surg”への報告だ.フランスからで,40歳代女性の急性発症の味覚障害を伴わない嗅覚喪失により受診.空咳はあるが,熱も鼻汁もない.内視鏡的にも鼻腔の異常はないが,CTやMRIで両側の炎症性嗅裂(olfactory clefts)の閉塞が認められた.嗅裂? なんじゃそりゃと思った筆者は慌ててネットで検索したが,第一脳神経から鼻粘膜までの通り道のことらしい.ここの異常をMRIまで使って検証したのはさすがプロ.画像も勉強になりました.嗅覚検査によく用いる臭い源がバラの花,キャラメル,ゴートチーズ,果物,肥やしの臭いというのも知りませんでした.

Eliezer M, Hautefort C, Hamel AL, et al. Sudden and Complete Olfactory Loss Function as a Possible Symptom of COVID−19[2020/4/8]. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2020. doi:10.1001/jamaoto.2020.0832(Accessed 2020/4/9)

抗体検査

●カレトラ®
 HIV診療に長く用いられてきたプロテアーゼ阻害薬のロピナビル・リトナビル(カレトラ®)を用いた,重症COVID—19患者へのオープンラベル・ランダム化比較試験.2020年1月18日から2月3日にかけて武漢のJin Yin—Tan病院にて行われた.ロピナビル・リトナビル経口投与1日2回と,非投与群(プラセボなし)で14日間治療がなされ,加えて両群に標準治療がなされた.標準治療には人工呼吸やECMOも含まれる.一次アウトカムは臨床改善までの時間.総サンプル数は160人で設定されたが,結局すぐにサンプル数は満ちて,そのまま臨床試験は継続された.が,別の薬(remdesivir)が使用可能になったため,この臨床試験は中止になった.1次アウトカムでは臨床改善までの時間は16日vs 16日と差はなかった.modified intention—to—treatだと15日vs 16日でやはり差はなかった.28日死亡率はカレトラ®群が19.2%,標準治療のみ群が25%だった(差は5.8%,95%信頼区間:-17.3−5.7),modified ITTでも15.7% vs 25%で有意差はなかった.ICU滞在期間や生存しての退院までの時間はカレトラ群で短かった(それぞれ中央値:6日vs 11日,12日vs 14日).カレトラ®の臨床効果はもしかしたらあるのかもしれないが,劇的に患者の予後が改善する,というかんじでもない.

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