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微生物検査 危機一髪!(24)

[第24回]結核菌の塗抹検査って知っていますか?

山本 剛 やまもと ごう
神戸市立医療センター中央市民病院臨床検査技術部

(初出:J-IDEO Vol.5 No.2 2021年3月 刊行)

 結核は全世界で1,000万人以上の感染者があり,年間140万人もの死亡者が発生している.日本では14,460人が新規結核患者として登録があり,統計を取り出した昭和26年に比べると1/40まで減少している.罹患率は11.5となり低蔓延国入りとなる10.0未満も目前となってきた.全死亡人口のうち第31位と年々死亡率も下がってきたが,感染症ではいまだに主要な微生物の一つである.
 結核の診断で最も重要なのは培養で結核菌を分離することであるが,ほとんどの施設で結核菌検査は外部に委ねている.バイオセーフティー上の理由から自動化は難しく,操作はすべて安全キャビネットのなかで行わなければならず,結核菌検査を行うには多額の設備投資が必要になる.また,1施設当たりで結核菌が分離される機会は少なく,保険点数も低いため試薬コストを考慮すると採算性が低い検査であることも理由の一つである.
 結核菌検査は結核診断の重要性に加え,院内感染対策を行う上での重要性が高いが,各施設で結核の診断・治療はおろか,結核菌検査については十分に理解がされていない.
 今回は,結核菌検査に焦点を当てて,実際に経験した症例を紹介しながら解説していく.

結核菌検査の流れと特徴

1)結核菌の世代時間は長い

 世代時間とは一般細菌や抗酸菌が細胞分裂にかかる時間のことで,腸炎ビブリオは10分,大腸菌は15~20分,黄色ブドウ球菌は30分といわれている.一方で結核菌は20~22時間とほぼ1日に1回の分裂になる.微生物検査室から「大腸菌が生えました」とか,「MRSAが陽性になりました」など報告をすることがあるが,「昨日出した検体で結核菌が生えました」ということは100%あり得ないことである.培養陽性になるまで時間がかかる一方で,分離された場合の臨床的意義が大きいため,PCRやLAMPなどの核酸増幅検査が重宝されるのである.

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