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基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(24)

[第24回]Elizabethkingia属による感染症にvancomycinを選択すべきなのか?

西村 翔 にしむら しょう
神戸大学医学部附属病院感染症内科

(初出:J-IDEO Vol.5 No.1 2021年1月 刊行)

 さて,前回はD-testに関して解説しましたが,再びグラム陰性桿菌のハナシに戻ります.今回からしばらくの間は,Pseudomonas spp. やAcinetobacter spp. などを除いた,耐性度の高いマイナーキャラの非発酵菌に注目していきます.初回はElizabethkingia属です.

┃Elizabethkingia属の分類

 Elizabethkingia meningosepticaはアメリカの微生物学者であるElizabeth O. Kingによって,乳児の髄膜炎の原因菌として1959年に初めて報告された【1】,非運動性,カタラーゼおよびオキシダーゼ陽性のブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌であり,当初はFlavobacterium属に分類,その後1994年には新しく設立されたChryseobacterium属に移動しましたが,2005年に16S rRNAのシークエンスに基づいてElizabethkingia属が設けられて,同じくChryseobacterium属であったChryseobacterium miricolaとともに再分類されました【2】.現在までに,6菌種がElizabethkingia属に分類され【3】,ヒトへの感染症例のほとんどは,E. anophelis,E. meningoseptica,E. miricolaの3種類が占めています.このE. anophelisは2011年にガンビアの蚊(Anopheles gambiae)の中腸から同定された菌種です【4】が,2013年に初めてヒトへの感染が報告(症例自体は2011年に中央アフリカで発生した新生児髄膜炎【5】)されて以降,すでにシンガポールや米国中西部(ウィスコンシン,イリノイ,ミシガン州)などで多数のアウトブレイクが報告されており,さらに驚くべきは,表現型検査に基づいた菌種分類法ではE. anophelisはE. meningosepticaと誤って同定される可能性があり,16S rRNAやPCRなどの遺伝子検査,あるいは(最新のデータベースを用いた)MALDI-TOFでなければ正確に分類できないという点です【6】.これらの遺伝子検査を用いた現在の疫学調査では臨床検体から分離される頻度が最も高いElizabethkingia属はE. anophelisであり【7】,過去の報告でE. meningosepticaと同定されていた菌株の一定数は実際にはE. anophelisであったと推察されます【8】.

┃E. meningosepticaの臨床像

 Elizabethkingia属は土壌や淡水,海水,さらに病院の環境表面や,塩素消毒されている上水道,シンク,呼吸器回路,生食バッグなどからも分離され,院内アウトブレイクの原因となります【9】.E. meningosepticaの臨床像としては,新生児(特に早産児)の髄膜炎,成人では院内肺炎(気道に定着しているだけの場合も多い),primary bacteremia,その他カテーテル関連血流感染や心内膜炎,創部/熱傷部感染,皮膚軟部組織感染,関節炎,腹膜透析関連の腹膜炎や眼内炎/角膜炎,尿路感染などの報告があります【8,10】.ほとんどの症例が院内発症(特にICUや新生児ユニット)で,成人では悪性腫瘍や糖尿病などの慢性疾患を有する患者に起こって【11,12】おり,死亡率は20~60%と比較的高くなっています【8】.またE. anophelisも,E. meningosepticaと同様の臨床像を呈することが明らかになっています【6,13】.

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