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研修医のための微生物レクチャーシリーズ グラム染色所見と培養結果からどう考える?(20)

[第20回]グラム陽性桿菌編⑤

黒田浩一 くろだ ひろかず
神戸市立医療センター中央市民病院感染症科

(初出:J-IDEO Vol.7 No.1 2022年1月 刊行)

 前回の連載では,ときどき臨床現場で出会うグラム陽性桿菌であるPropionibacterium属(正式名称はCutibacterium属)について説明しました.今回は,有名ですが,それほど出会うことはない(日本の高次医療機関だと年数例程度)Listeria monocytogenesについて解説していきます.


1.Listeria monocytogenesの微生物学的特徴

 ヒトに感染症を起こすほとんどのListeria属(21菌種存在する【1】)は,Listeria monocytogenes(L. monocytogenes)であり,高齢者・新生児・妊婦・免疫不全者の中枢神経系の感染症(主に,髄膜炎または髄膜脳炎)と菌血症の原因となります.髄液や血液などの無菌検体からL. monocytogenesが検出される病態を,侵襲性リステリア症(invasive listeriosis,invasive Listeria monocytogenes infection)と呼びます【2,3】.主に,L. monocytogenesに汚染された食べ物を経口摂取することで菌が体内に入り,腸管粘膜に侵入,その後,全身感染症を起こすと考えられています.血液脳関門や胎盤を通過し,中枢神経系・胎児に感染しやすいことが,この細菌の大きな特徴です(なお,胎盤や胎児に感染しやすい理由は,はっきりとはわかっていません).
 一方,免疫正常者で重篤な感染症を起こすことは稀です.免疫正常者の発熱を伴う胃腸炎の原因になりますが,自然治癒する病態,かつ,頻度が稀な病態であるため,通常下痢患者においてL. monocytogenesの可能性が検討されることはありません【4】.

(1)生息地

 L. monocytogenesは,土壌・腐敗した植物・動物・粉塵・食品・動物の飼料・水・下水などに存在し,主に菌に汚染された食事を摂取することによって感染する食品媒介性病原体の1つです【5】.

【重要】L. monocytogenesは自然界に広く存在し,汚染された食事を介して感染する.

(2)主な微生物学的特徴

 L. monocytogenesは,通性嫌気性菌のため,好気培養・嫌気培養どちらでも検出されます.運動性があり(鏡検像が似ているCorynebacterium属は運動性なし),β溶血性,無芽胞菌,小さく短いグラム陽性桿菌であることが主な微生物学的な特徴です.冷蔵庫(4~10℃)内の環境でも発育可能であることや耐塩性を持つことも知っておくとよいでしょう【6,7】.

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