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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.03

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.03
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 医長


 今回は2019年の9月号です。

 特集は特定のテーマではなく、4月に名古屋で行われた内科学会総会の講演会の総集編です。
 こういう回、毎年あるんです。
 なので今回は、「今月の症例」の掲載がないので、みんなお待ちかねの名物コーナー「どこ引き」がありません!!

 ちなみに本編はどうなっているかというと、内科学会総会内の「招請講演・シンポジウム・教育講演」で話された内容のダイジェスト版的なものです。

 なので、
  各領域の権威がお話ししているので難しい
 
 よくも悪しくも総説的(実践的ではない)
 という内容なんです。

 現実的には、タイトルやサブタイトル、小見出しなどを流し読みして、気になったところだけ読む、というものになると思いますが、正直少々キツいです。
 難しいんです。

 私、ここで、内科学会雑誌を愛するがゆえに、内科学会の大批判をします。
 今号のような、学会の総集編を文字でまとめておくということ自体はとても良いと思うのですが、私が問題だと思うのはそこではありません。
 難しいんです。内容が。
 元になる各講演の、内容がいけないと思うんです。
 しゃべる人が、自分の領域の、他の権威たちの目をめちゃめちゃ気にしているんですよ。突っ込まれないように。

 その道の権威が、その領域の他の専門家にも「抜け」や「不足」を突っ込まれないようにしゃべろうとしたらどうなると思います?
 「抜け」がないようにですから、網目の目を荒くしないようにするわけですから、密度を上げてくるはずです。つまり、網目を細かくするように、内容も細かいものになります。
 「不足」がないようにしゃべる場合はどうなるでしょう。網羅したいわけでしょうけども、話す時間は限られていますから、自然「総花的」になるはずです。内容も、攻めたものにはならないですし、「これだけは」のようなボトムラインを提示した内容にはならないでしょう。なんというか、無難なものになるはずです。

 「学会だから当然だ」
 そんな突っ込みもあるかもしれません。
 しかし私に言わせれば、「権威・専門家どうしの議論は、各専門学会でやってください」ですよ。
 内科学会総会は、すべての内科各科の先生が来られるわけです。今、参加者をざっくり内科9分野に分けるとして、そうしたら全体の8/9は、「非専門医」なわけです。
 講演をする先生が話す相手はその「8/9の人たち」なのですから、つまりほとんどの相手は「非専門医」であることを肝に銘じていただきたいです。各科のトップリーダーなわけですから、それくらいの度量を見せていただきたいです。

具体的には、
 ・ 自分の専門領域の最新知見のことを、わかりやすく説明する
 ・ 自分の専門領域について、非専門医の先生にもこれだけは知っておいてほしいこと、をわかりやすくまとめる

 こうしたことをしていただきたいです。
 講演は、専門ではない人たちのためにお願いします!!


 ・・・さて今月は「どこ引き」がやれないことはすでに言いました。
 今、これを書きながら思いついたのですが、バックナンバーからやればいいじゃない〜と思い直しました。
 と、自宅デスクを見渡しました。

画像1


 あっ。

 ・・・そうしたらですね。
 「足元」あたりから一冊、内科学会雑誌が見つかりました。ちょうど、「何読み」の連載を始める直前の号、つまり2019年6月号でした!!
 ではこの号の「どこ引き」を急遽ですがやってしまいましょう!

 あ。どこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略です。すみません勝手に。

 6月号は2例ありました。
 さっそく見ていきましょう。

■p1187, 著明な好酸球増多を伴ったALK陰性未分化大細胞リンパ腫の1例

 まず1例目です。これは非常に勉強になる記述です。
 はっきり言って、おすすめです。
 「症例報告」を読んでいるはずなのに、好酸球増多についてミニレビューする形になっています。症例報告を読むというのは、こういうところが良いんですよね。

 また、記述が「専門医(血液内科医)から一般内科医へのメッセージ(お願い)」という様相が強く、とても臨床的です。
 「ALK陰性未分化大細胞リンパ腫の1例」って部分で、upsetしてしまって読まずにいたらもったいないレポートです。
 こってりとした、ゴリゴリの血液内科医のレアケース提示ではないです。

 75歳の男性が、腹部膨満・腰腹痛が亜急性に悪化し、その精査に際し前医に入院。そこで悪性リンパ腫が疑われたので、筆者らの病院に転院してきています。
 前医のCTでは腹腔内及び鼠径のリンパ節腫大がすでにあったそうです。
 

 しかも転院時の血液検査結果が、
 LDH 884 U/l
 ALP 1,332 U/l
 CRP 10.03 mg/dl
 sIL-2R 48,500 U/ml

 です。

 おそらくこれくらいは前医でも把握していたことでしょう。
 これ......
 悪性リンパ腫ですよね。
 「sIL-2R、非特異的で役立たない・測定するな派」の先生、48,500ですよ......。
 さすがにリンパ腫でしょ......。
 もっと早く転院していれば......という雰囲気が論文全体から伝わってきます。

 実は筆者らも最後にほのめかしていますが、悪性リンパ腫の治療は血液内科医で良いと思いますが、悪性リンパ腫の診断は非血液内科医でもできます。これは私も同意です。

 そして好酸球は、白血球数45,040に対して87.0%!
 著増しています。
 この時点で、二次性の好酸球増多ということが明白です。
 つまり、悪性リンパ腫に続発して、好酸球が反応性に増加しているというわけです。

 重要なのは、筆者らも言っていますが、腫瘍を制圧することと、好酸球を制圧することは分けて考えて良い、ということです。
 私もそう思いますが、経過が亜急性以上で、重要臓器への浸潤が疑われるなら、リンパ腫の確定診断に拘泥せずに、好酸球増多という病態に介入し始めて良いのだと思います。
 このことの重要性を、この論文は説いています。
 素晴らしいですね。

 私が、拙著「病名がなくてもできること(書名が長く、以下省略)」の第2章で述べに述べていることとかぶります。

 好酸球は、組織障害作用・血管透過性亢進作用を持つ顆粒を有しており、IL-5受容体を介してこの放出が誘導されます。
 本文では、リンパ腫がIL-5を産生したという考察になっていますが、それによって好酸球からのそうした顆粒の放出が強く促されたのでしょう。

 結果として患者は急速に胸腹水の難治化・増悪、循環不全をきたして、悪性リンパ腫の確定診断がついた直後の第17病日になくなります。
 ちなみにリンパ節生検は第6病日で、その日からステロイドが開始されています。

 経過表を見ますと、ステロイド開始後に、胸腹水が奇異に悪化しているように見えるのは気のせいでしょうか......。もしかしたら、メポリズマブ(ヌーカラ®️)を入れないといけなかった症例かもしれません......。

 リンパ腫としての診断の難しさはなかったものの、好酸球増多自体を「症候」と捉えて、場合によっては早期に介入すべきである、という非専門医へのメッセージで締められておりました。

 「何読み」のVol.02でも出てきましたが、好酸球、あいつらは「虎」です。個人的な学びとしては、あまりに多い好酸球増多に対して、ステロイドはparadoxicalな悪化を見るかもしれないということでした。


■p1197, 集団急性一酸化炭素中毒における対応

 さて6月号の「どこ引き」の2例目です。
 これはすごい......。
 なんと1例報告ではありません。
 すごいのはそこではなく、「自衛隊(横須賀病院)」からの報告です......。
 僕が集団の一酸化炭素中毒に遭遇したら、逃げ出すか自衛隊呼ぶかどちらかですよ。
 今回は後者でした(違)。

 16人の集団一酸化炭素中毒患者発生に、迅速な酸素投与と高圧酸素治療を実施。遅発性脳症をフォローしたがみられず。みな回復したそうです。

 これは一種の活動記録であって、あまり真似できるものではありません。
個人的に学びになったのは、遅発性脳症ですね。

 遅発性脳症は、一酸化炭素中毒の急性期から回復した後、2日〜4週間の無症状期間を経て、精神・神経症状を呈する病態だそうです。
CO-Hb(一酸化炭素と結合したヘモグロビン)の濃度によらない病態らしいです。
 つまり、一酸化炭素中毒としてはとても軽くても、遅発性脳症は起きるかもしれないということです。
 つまり(2回目)、原因不明の精神・神経症状(脳症)をみたら、最長1ヶ月前の「一酸化炭素曝露」の問診をするべき、とも言えるかもしれません。軽くても、ということです。


 今回は、最新号に「今月の症例」がなかったのに、逆に文量が多くなってしまいましたね。
 来月は、もっとあっさり書きますね!

 それでは今日はこの辺で!

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