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抗菌薬選択チェックメイトへの道(31)

[第31回]ステイルメイト? それでもその先へ!

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授

(初出:J-IDEO Vol.8 No.2 2024年3月 刊行)


医師A 「昨夜,夜間救急センターから搬送された患者さん,今朝になっても発熱が続いていて咳と痰の症状が出てきたようです.血液培養と喀痰培養をオーダーしました.喀痰のグラム染色所見からおすすめの抗菌薬がありましたらよろしくお願いします」
薬剤師 「肺炎ですか?」
医師A 「実は,夜間救急センターでは髄膜炎を疑われて救急搬送されてきました.当院到着後,腰椎穿刺したのですが,細胞数は上がっていなくて髄膜炎は否定的だったので,入院後からまだ抗菌薬は開始していません.胸部単純X線では肺野に浸潤影がなさそうに見えたのですが,胸部CTで左肺下葉上区に浸潤影が認められました」
薬剤師 「そうですか.喀痰のグラム染色所見と患者さんの様子を確認した上で抗菌薬の提案を含め報告したいと思います」
医師A 「今日は当直明けなのでこれから退勤しますが,抗菌薬が必要そうでしたらB先生に連絡して処方してもらってください」
薬剤師 「承知しました」

 喀痰のグラム染色結果が判明する前に診療録および各種検査結果を確認し,ベッドサイドにうかがいました.

入院時現症

22歳,男性,身長173 cm,体重86.2 kg.
主訴 発熱,頭痛,嘔気・嘔吐,下痢,関節痛.
現病歴 3日前の夜より40℃近い発熱,2日前に近位受診し,新型コロナウイルス感染症,インフルエンザ抗原検査陰性で内服のみ処方.1日前,同居の叔母が様子を見に行ったところ具合が悪そうなので,夜間急病センターを受診.項部硬直,Kernig徴候認め,血液検査でWBC・CRPの上昇あり,細菌性髄膜炎疑いでセフトリアキソン(CTRX)点滴の上,当院へ搬送となる.
既往歴 1年前に新型コロナウイルス感染症.
アレルギー歴・副作用歴 なし.
飲酒歴 ほとんど飲まない.
喫煙歴 なし.

入院日(コンサルト時)
検査結果

血液検査

WBC 17,700/μL(分画:Seg 91.0%,Lympho 5.0%,Mono 3.0%),Hb 13.1 g/dL,Hct 37.7%,
Plt 20.1×104/μL,Na 132 mEq/L,K 3.6 mEq/L,
Cl 100 mEq/L,BUN 11.6 mg/dL,Cr 1.38 mg/dL,
T-bil 0.7 mg/dL,AST 34 U/L,ALT 36 U/L,
γGTP 32 U/L,CPK 1,617 U/L,CRP 16.25 mg/dL.
RPR定性(-),TPHA定性(-).

髄液検査
外見:無色透明.
初圧:23 cmH2O.
細胞数:≦1/μL(単核球100%,多形核球0%).
タンパク:12 mg/dL.
糖:97 mg/dL.
クロール:122 mEq/L.

胸部単純X線
心拡大を認める.肺野内に異常陰影なし[図1].

胸部単純CT
左肺下葉上区を中心に結節性変化や浸潤性変化を認める[図2].

頭部MRI:拡散強調画像
脳梁膨大部ほぼ正中に淡い斑状高信号を認める[図3].

インフルエンザ抗原検査  A(-),B(-).

新型コロナウイルス感染症迅速検査  ID-NOW(-).

内服薬服用歴

【近医内科】(当院入院2日前)
ピーエイ配合錠
  1回1錠 1日3回毎食後
アンブロキソール塩酸塩錠(15 mg)
  1回1錠 1日3回毎食後
アセトアミノフェン錠(200 mg)
  1回1錠 1日3回毎食後
レバミピド錠(100 mg)
  1回1錠 1日3回毎食後
ジメモルファンリン酸塩錠(10 mg)
  1回1錠 1日3回毎食後
レボフロキサシン錠(250 mg)
  1回2錠 1日1回朝食後
※入院後は内服薬すべて中止

【夜間急病センター】(当院搬送前)
セフトリアキソンNa静注用1 g
  1回2 g 1日1回点滴静注

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