國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.20
國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.20
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長
今回は2021年の2月号の「何読み」です!
今回の内科学会雑誌の特集名は、「虚血性心疾患診療のいま」です。
Editorialが良かったです。
p193の「新型コロナウイルス感染症蔓延下での心筋梗塞診療体制の変化」というところが一番面白かったと思います。
「今月の症例」のいつも後ろにある「医学と医療の最前線」というコーナーが個人的に好きなのですが、今月は3本あって3本ともよく、神回と言えると思います。
• IgG4関連疾患の病態および診断と治療
• クローン性造血と造血器疾患
• 心アミロイドーシス診療の進歩
の3本です。
IgG4のはとてもスタンダードな内容でした。
リツキシマブの立ち位置はどうかなと思って読みましたが、特に進展なく、全体としてごく標準的。つまりIgG4関連疾患をあまり知らない先生向けでした。
「今さら聞けない」というサブタイトルを付けたくなりました。
0.6 mg/kg/dayで寛解導入(2~4週)、2~3ヶ月で漸減した後、3年を目安に5~7.5 mg/日の維持療法を行う
というのがIgG4関連疾患の治療です。
クローン性造血の記事が、個人的に今号で一番のヒットでした。
個人的にこれは必読です。
ものすごく重厚で、読み応えがあります。
低形成骨髄のMDS(骨髄異形成症候群)では、再生不良性貧血との鑑別が問題になることは、臨床家にとって積年の問題でした。
しかし再生不良性貧血側からの進歩があるようなんです。
つまり、「再生不良性貧血に認められるクローン性造血の存在」の認識です。
一般に再生不良性貧血においては、自己免疫的機序で造血障害が起こっています。
それが、HLAクラスIが位置する6番染色体短腕のUPD(uniparental disomy);UPD6p を有すると、免疫回避機構(免疫学的攻撃からのエスケープ)が起こり、つまり自己免疫反応が生じなくなります。
だからラッキー! なのではなく、自己免疫反応が生じなくなったことでクローン性造血を保有するようになり、このことが、臨床的に再生不良性貧血がMDSに移行したり、低形成MDSとの鑑別が難しくなったりする背景になっているようです。
おそらくUPD6p があっさりと検査できるようになれば、将来の初期研修医があっさりと両者(再生不良性貧血 vs 低形成MDS)を鑑別しちゃう時代が来ると思います。
後学用には医学書院の雑誌のこちらがおすすめです。
https://www.igaku-shoin.co.jp/journal/detail/39089
記事単位だと、直接的に対応するものもあります。
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1542202405
では「今月の症例、どこに線を引きましたか?(どこ引き)」に参りましょう。
ちなみにどこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、「何読み」の中のメインコーナーになっております。
「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、
青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ
で塗り分けるのでした。
今月号も、前回のように3例ありますので、あまり長過ぎないようにまとめようと思います。
では、1例ずつ見て参りますね。
■p274 Birt-Hogg-Dubé症候群 1家系内2例の臨床的特徴
ではいつものように最初にタイトルをみましょう。
あれ。これ「何読み」始まって以来初の「2例」報告です。
そしてタイトルは実にスタンダードな説明的タイトルです。
このパターンの時は、このタイトルにはおそらく過不足がないです。
必要十分なタイトルのはずです。
逆に言えば、意外性はなく、堅実なレビューがなされているとみます。
「Birt-Hogg-Dubé症候群」というのは、正直馴染みのある疾患ではありません。
ですが、なぜかこのタイトルの安心感。
安心して読めそうな記事です。
では中身に入りましょうか。
読んでみますと、やはりトリッキーな内容は一切ありませんでした。
Birt-Hogg-Dubé症候群の臨床的特徴が、診たことがないような人にもしっかり伝わる内容でした。
ワンラインで言えば、
再発気胸では嚢胞性疾患検索が必要である
となり、非常にシャープで力のある一文だなあと感心しました。
また、遺伝性疾患にはちゃんと遺伝カウンセリングをしようというメッセージもあり、これは筆者らのみならず、これを掲載した編集部の意図も感じられます。
とてもいいことです。
考察には、気胸原因疾患として
• 慢性閉塞性肺疾患や間質性肺炎による肺胞構造破壊
• 異所性子宮内膜症
という記載がありました。
そして「遺伝性の嚢胞性疾患」として、Birt-Hogg-Dubé症候群以外に、
• α1-アンチトリプシン欠損症
• リンパ脈管筋腫症
• Marfan症候群
• 嚢胞性線維症
• Ehlers-Danlos症候群
が挙げられていました。
あれ?
あれれ?
はい、気づきましたよね当然。
そうです。「Kunimatsu’s Lists」です。
最近アプリも出ました。
わからない?
仕方ないですね。これです。
ちなみにアプリはこんな雰囲気です。
noteで中外医学社の社員が説明してました、そう言えば。
https://note.com/chugaiigaku/n/n7eec1d3bd1c5
Birt-Hogg-Dubé症候群もちゃんと、気胸がらみで触れてあるこの本をぜひ。
......。
1例目は以上です!
では気を取り直して2例目に参りたいと思います!!!
■p282 長男の診断を契機に28年越しに診断された家族性地中海熱(FMF)の1例
さて「どこ引き」2例目です。今回もまた、まずタイトルを見てみましょうね。
あれ。
これはすごいタイトルですね。
どこがって?
いえ、その。
これ、このまま取れば「28年越し」ってところだけがすごいという症例になってしまいますね。
それでいいんでしょうか......。
何年越しでも、どんなFMFなのかということが大事なはずです。
もはや世界中のどのジャーナルでも、「FMFを診断しました」では掲載されません。
目玉がないと。
このままですと、目玉は「28年越し」......つまり”delayed diagnosis(診断の遅れ)”がテーマ......
あ! そうか!
きっと考察で、FMFにおけるdelayed diagnosisについてまとめてあるんだ。
きっとそうだ。
でもなんだろう。この胸騒ぎ。
そんな中、本文に入りましょう。
54歳の女性が、、、長男がFMFと診断されて、、、ずっと長年発作を反復しいて、、、FMFと臨床診断(そりゃそうだ)、、、コルヒチン処方したら軽減したので遺伝子検査したら、、、FMFでした。
という症例でした。
以上です。
考察です。
均一!
特にフォーカスされた重要点なし!力点がわかりにくい。
終始、同じ程度の濃度で書かれた、本当に文字通りFMFの総論でした(総花感というやつです)。
序盤で「近年増えている」という論を展開していますが、これはすでに、
こちらの論文(査読あり)や、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsci/39/2/39_130/_pdf/-char/ja
こちらの本(ゴホン)
https://www.kinpodo-pub.co.jp/book/1753-5/
などで、少なくとも「啓発」には貢献したつもりです。
また今でも、大学病院でどうにもならずの症例や、小児科がうまく見れずの崩れ成人移行例なども、実際に実臨床では引き受けて診療しており、この界隈に幾ばくかの貢献をしているつもりです。
専門家たちは「整備」みたいなことに熱心で、臨床面がなおざりに感じます。
きっと自分のシマを守りたいんでしょうなあ......。
この国は「臨床家/clinician」の立場が低いっす。
......ということで2例目は以上です。いやほんとに。
まぁ、この論文の意味は、より啓発したいってことでしょう。そう思うことにします。
1例目に続き、ここでも遺伝カウンセリングが出てきており、やはりこれは内科雑誌編集部ひいては内科学会が打ち出したいこれからの大きなテーマかもしれませんね。
そこを啓発するなら、「臨床遺伝専門医」をもっと簡単に取れるようにして欲しいです。
すごく取りにくいんですよ。
遺伝カウンセリングを、もっと日常的なものに、良い意味での“格下げ”をして欲しいです(倫理的に問題のある発言!)。
以上です!
では3例目に参りたいと思います!!!
■p289 予後不良の転帰をたどったparathyroid hormone-related protein(PTHrP)及びgranulocyte-colony stimulating factor(G-CSF)産生胃体部癌の1剖検例
さて「どこ引き」、3例目最後のケースです。
これは、剖検例ですね。
そう書いてあります。
てことは、亡くなっているということです(当たり前)。
つまり、症例報告になるからには組織学的にもなにがしかの確定診断がついたということでしょう。
PTHrP産生のがんで「胃癌」というのは頻度は多くないはずです。
固形癌なら、肺癌、乳癌、腎癌が多いという知識はあるからです。
つまりもうすでに稀なケースであるっぽいにおいがしますよね。
一方、G-CSF産生腫瘍も多くはなくどちらかというとレア疾患です。
そして症例報告に取り上げられやすいです。
白血球がすごく増えるから、臨床でインプレッシブなんですよね。
では本文を見てみますね。
まずびっくりするのが、年齢です。36歳。
この若さで亡くなっているということです。
症例は、胃痛と貧血と吐血で入院して癌が見つかって、入院。
治療を開始して、それはいいのですが、高Ca血症と白血球の増多が治らず。
腫瘍は、遠隔転移含めてどんどん増大して第46病日に他界されています。
剖検でPTHrP/G-CSF産生腫瘍であることが確定しました。
考察の冒頭にもありますが、「悪性腫瘍に伴う高Ca血症(malignancy associated hypercalcemia: MAH)」というのがまずテーマの1つです。
これですが、MAHという言葉が新鮮だったので、ググりました。
悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症ではPTH低値、PTH-related protein (PTHrP)高値となる悪性体液性高カルシウム血症(humoral hypercalcemia of malignancy:HHM)と骨転移に伴う広範な骨破壊による高カルシウム血症(local osteolytic hypercalcemia:LOH)がありHHM80%、LOH20%の頻度です。
HHMは、腫瘍細胞が過剰に産生・分泌するPTHrPによって起こります。HHMは、肺扁平上皮癌、乳癌、泌尿生殖器系腫瘍や成人T細胞白血病での発症頻度が高いです。
一方、LOHは、肺癌、乳癌などの骨転移や多発性骨髄腫などで、骨転移した局所で腫瘍が産生する骨吸収因子によって起こります。
PTHrPを産生する腫瘍の種類、HHMの発症頻度は、成人T細胞白血病(ATL)では、80%と極めて高頻度で起こります。一方、固形癌の中で一番多いのは、肺癌です。その他、口腔癌、鼻腔癌、咽頭癌、腎癌、乳癌でも起こります。固形癌での頻度は15%前後と言われ、末期には約2倍に増加します。
http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=54
「日本内分泌学会HP 一般の人へ」より抜粋
一般の人には少し難しいと思いましたが、逆に我々非専門医にとっては平易でした。考察ではまずこれらのことと同様の内容が文献考察されてあります。
あとは、とにかく稀であるということについて。
この論文の考察の素晴らしいところは、さらに深く症例を掘り下げていたところです。
このケースでは、CRP 21.7 mg/dlとかなりの高炎症でした。炎症性サイトカインが、PTHrPやG-CSF分泌を促進するらしく、これによってHHMの病態を悪化・促進し、治療抵抗性たらしめる、という考察でした。
つまり高サイトカイン血症を伴う悪性腫瘍では、抗がん剤のみならず、高炎症状態を解除するような治療介入が有用である可能性がある、という展望まで語られていました。
これこそ、一例で多くを学びとる、の真骨頂です。
記事では明言していませんが、高炎症状態を解除するような治療介入というのは、これはトシリズマブのことでしょうか。
データのところに、しれっとなぜか血清IL-6値も書いてあり、におわせですね。51.4 pg/ml(基準は4以下とのこと)とあり、かなりの高IL-6血症があったことになります。
確かにがん悪液質の患者で、感染症ではないCRPが高い人がいて、悪液質だからなあと思っていたことはかつてありましたが、悪液質だから高いのではなく、むしろ悪液質状態を促進している因子だったのかもしれません(炎症が高いから悪液質になりやすい)。
「悪性腫瘍だからCRPくらい上がる」という認識ではもうだめな時代かもしれませんね。
かと言ってじゃあトシリズマブいこうってことにはまだならないでしょうから、今後の知見蓄積が待たれます。
今月は以上です!
長丁場、お疲れ様でした。
ではこの辺で!
國松淳和 先生の書籍案内
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『Kunimatsu's Lists ~國松の鑑別リスト~』の楽しみ方
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