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脳トレ診断推論 ハイブリッドリーズニングを使いこなせ!(4)

脳トレ診断推論 ハイブリッドリーズニングを使いこなせ!(4)
[第4回]左鼠径部痛を主訴に来院した63歳女性
上原孝紀 Takanori Uehara
千葉大学 診断推論学/総合診療科

千葉大学総合診療科のエースが,同科で行われている診断推論トレーニング法を伝授します!それは,暗黙知としてスルーされているような問題を言語化していく「脳トレ」.さあ,皆さん一緒に診断力を向上させましょう!

Ⅰ はじめに


 「どうやったら診断のスキルが上がりますか?」という質問をよく頂きます.診断推論の各論としての方略はまだまだ言語化,抽象化されていないのが現状だと思います.そこで,現時点での回答を自分なりに考えてみました.「たくさんの知識の修得」と,「知識の使い方の洗練」はともに診断推論には必須ですが,どちらがより重要だと思いますか? Bordageによると,「知識の量」よりも,「知識の使い方=ネットワーク化」がまず重要であるとされています1).教科書や最新の論文をたくさん読むことよりも,それぞれの知識をネットワーク化することのほうが診断推論スキルの向上には近道なのです.
 ネットワーク化は第1~3回で解説してきた,病態生理や解剖,チャンクやキーワード,SQ,illness scriptなどを用いて行います.ネットワーク化を可視化する試みは,医師の成長曲線を向上させて,結果として一定水準以上の医療を提供できる医師を増やすことにつながるだろうと私は考えています.それでは脳トレ診断推論第4回,始めましょう!


Ⅱ 脳トレ診断推論ケース3


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63歳,女性.主訴:左鼠径部から左腰に強い痛みがある.左足内側にも広がる.
現病歴:1週前の起床時に左鼠径部の痛みに気付いた.痛みは徐々に悪化し,左腰や左大腿内側に広がったため,4日前の夜間帯に地域基幹病院救急外来受診.採血,単純CTが実施されるも異常を認めず,アセトアミノフェン内服で帰宅.3日前,2日前に同院の内科,整形外科,婦人科に受診.造影CT,腰椎MRIや経腟エコーなど各種精査を施行されるも,左卵巣に15 mm大の卵巣囊腫を認めるほか異常なし.原因精査目的に当科を紹介され,独歩受診した.既往歴は心筋梗塞,高血圧,脂質異常症(44歳),うつ病(51歳),糖尿病(58歳).内服薬(各1日量)はニフェジピンCR 40 mg,アスピリン 100 mg,アトルバスタチン 10 mg.
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 第3回まで読んでくださった方には,「これまでと比べて,とても情報量が多い!」と感じられたと思います.そして,皆さんのなかには,「主訴で診断がついた!」という方が少なからずいらっしゃると思います.もちろんシステム1で一発診断できることはとても大事です.ただシステム1による診断推論は,deep learningによるAI診断のように,どうしてその診断に至ったのか,その過程を明らかにはしてくれません.この脳トレ診断推論では,システム1で診断ができるときでも,あえてシステム2で推論をすることにより,診断に至る過程を言語化しています.診断を当てることが目的ではなく,どのように考えるかがトレーニングの目的だからです.

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