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呼吸器感染症よもやま話(2)

[第2回]終末期の喀痰検査

倉原 優 くらはら ゆう
国立病院機構中央胸部疾患センター内科

(初出:J-IDEO Vol.1 No.2 2017年5月 刊行)

 私は肺がんの患者さんをたくさん診ていますが,終末期になると死前喘鳴と呼ばれるゼロゼロとした喀痰を呈することがあります.若かりし頃はグラム染色が日常的に行われていた病院で研修をしていたため,気道分泌物過多を診ただけですぐに喀痰の細菌検査を提出していたものです.私の知るかぎり,終末期医療において喀痰の細菌検査を提出することが是か非か,正しい答えはいまだにありません.
 私に初めての初期研修医がついたとき,彼に肺がんの症例を受け持たせました.終末期医療について真正面から向き合ってもらいたくて,敢えて終末期に近い患者さんを担当させたのです.その患者さんは,肺扁平上皮がんのⅣ期で,多発性肝転移・脳転移・骨転移・腹膜播種があり,すでにトランスアミナーゼが3ケタになって黄疸が出ている状態でした.在宅で看取る予定でしたが,どうしても倦怠感が強いと訴えて患者さん自らが入院を希望してきたのです.
 入院した翌日のことでした.研修医の彼が私にこう言いました.

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