研修医のための微生物レクチャーシリーズ グラム染色所見と培養結果からどう考える?(24)
[第24回]グラム陽性桿菌編 ⑨
黒田浩一 くろだ ひろかず
神戸市立医療センター中央市民病院感染症科
前回の連載では,ノカルジア症の治療と予後について説明しました.今回は,このシリーズで最後に説明するグラム陽性桿菌であるActinomyces属の微生物学的特徴・臨床像・診断・治療について解説していきます.
1.Actinomyces属の微生物学的特徴
Actinomyces属には多くの菌種が存在しており,25菌種以上がヒトに感染を起こす可能性が指摘されています1~3).なかでもActinomyces israelii(A. israelii)が最多で,その他,A. neuii,A. odontolyticus,A. naeslundii,A. meyeri,A. viscosus,A. funkei,A. gerencseriae,A. pyogenes,A. urogenitalis,A. georgiae,A. graevenitzii,A. europaeus,A. turicensisなどがヒトの感染症で問題となります.部位によって常在している菌種の傾向が異なるため,感染部位によって原因菌種の内訳は異なっています3).たとえば,頭頸部病変の場合は,A. israeliiが最多でA. gerencseriaeと2菌種で合わせて70%を占めるという報告があります4,5).
(1)生息地
Actinomyces属は,ヒトの口腔内,咽頭,消化管,泌尿生殖路で常在細菌叢を形成しています1,3,5).たとえば,口腔内では歯肉溝および扁桃陰窩内,特に歯周ポケット,歯垢,う歯に多く存在しています6).粘膜面に存在する常在菌であり,なんらかの原因による粘膜の破綻(外傷,外科的処置,異物など)が契機となって,深部組織に侵入して感染が成立します.このように,actinomycosis(放線菌症)は,他者や環境から感染する感染症ではなく,自分自身の体内に存在する細菌による感染,つまり内因性感染(endogenous infection)であると考えられています1,3,5,7,8).
(2)主な微生物学的特徴
Actinomyces属は,通常,偏性嫌気性グラム陽性桿菌のため,嫌気培養から検出されることが一般的ですが,菌種によって通性嫌気性または微好気性のため,たとえば血液培養の好気性ボトルから検出されることもあります1,7,9).
1)グラム染色像
グラム染色像からグラム陽性桿菌を分類する際,分岐の有無,菌体の大きさ,配列(連鎖・柵状)の3点に注目します.Actinomyces属は,分岐のある細いフィラメント状のグラム陽性桿菌です1,7).形態としてはNocardia属と似ていますが,非抗酸性である点が鑑別の参考になります.ただし,Nocardia属が,抗酸菌染色の1種であるKinyoun染色(キニヨン染色:脱色を0.5~1.0%硫酸で行います.結核菌などに対して行われるZiehl-Neelsen染色では3%塩酸が使用されています)に陽性となるのは約50%であるため,Kinyoun染色陰性だからといってNocardia属の除外はできません10).
また,Actinomyces属は多型性を示すため,Corynebacterium属のように棍棒状の短桿菌にみえ,小塊状・柵状・松葉状配列(V字・Y字・N字状の配列)を形成することもあります1,7,11~13).[図1]は,血液培養(嫌気ボトル)から検出されたActinomyces属です.Corynebacterium属のように小さめのグラム陽性桿菌が集簇しています.次項で説明しますが,検体採取前の抗菌薬投与などが原因で,放線菌症における培養検査(膿・組織検体)の感度は低く,グラム染色のほうが感度が高いことがあります.そのため,診断においてグラム染色は非常に重要な検査の1つとなっています5,7).
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