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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.07

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.07
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 医長


 今回は2020年の1月号です。

 さあ今月の「何読み」!
 令和2年、最初の内科学会雑誌です!
 今号の特集は......「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)の最新知見」です!

 まず、内科学会雑誌は年ごとに装丁が変わります。
 今年はメジャーな変化はなくて、色が変わっただけかな。緑色でした。

 文字通り「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)」がテーマなのですが、最近はこういう無難な疾患概念......無難とはちょっと語弊がありますね。包括的な呼称に変更されちゃう傾向(ぜんぜん言い直してない)がありますね。

 Wegener肉芽腫症 → 多発血管炎性肉芽腫症のように、人名ではなく、起きている病態に忠実な病名に修正されたり、様々な(雑多な)症候群を、おおむね1つの病態で括られるとしてIgG4関連疾患という包括名にまとめられたり、機能性ディプペプシアのような固有名詞的病態名だけでなく、下部消化管なども含めた概念としてまとめられた機能性消化管疾患(FGIDs)など。

 そして今回の非アルコール性脂肪性肝疾患。

 パラ見しましたが、特に私的に特記事項ありませんでしたので早速「どこ引き」に参りましょう......






 って言うと思ったでしょ????

 違うんだな~。
 けっこう私、NAFLD/NASHに関心高いんですよ~。

 なのでまあまあガッツリ読みました。
 まさに、今月何読みましたか? の「何読み」です!

 とはいえ、まるっきりお初の内容が多かったわけではなく、自分の知識の整頓に使えました。
 特にp19-26の「脂肪がもたらす肝の炎症」のところはたくさん蛍光ペンを引きました。

 “肝臓への異所性脂肪蓄積から生じるインスリン抵抗性や自然免疫の過剰応答による炎症、細胞内ストレスを伴う肝臓のリポトキシシティ(脂肪毒性)が共通のメカニズム”

 “......腸内細菌叢のバランスが乱れ(dysbiosis)、腸管透過性が亢進し、血中のlipopolysaccharide濃度が増加する代謝性エンドトキシン血症(metabolic endotoxemia)が生じ、炎症を誘導・遷延化させる”

 “脂肪化した肝臓に、このような代謝性エンドトキシン血症の病態が加わると、肝臓のみならず、脂肪組織や全身の炎症が惹起され......”

 “......脂肪酸やこれらの脂質メディエーターは、Toll-like receptor等を介して、自然免疫を強く活性化し、肝臓及び全身の炎症を誘導させる”

 つまり脂肪というのは炎症を惹起するということですね。

 内科学会雑誌から離れて日頃の私の診療の話になるのですが、肥満の患者さんで特に他に炎症の病気がないのにCRP高い人(微陽性~弱陽性)がいると思うのです。
 熱や軽い寒気や筋痛・関節痛を訴える人も稀にいます。強さは個人差があります。
 しかし、通り一遍の不明熱・不明炎症としての精査を通過しても特に原因が見当たりません。
 このCRPや微熱は「脂肪」が惹起していると思っています。

 今月の内科学会雑誌(p19-26)にあるような機序で、全身にも炎症性サイトカインが放出されます。
 Key journalは、Williams KH, et al. Endocr Rev. 2013 Feb;34(1):84-129. doi: 10.1210/er.2012-1009. Diabetes and nonalcoholic Fatty liver disease: a pathogenic duo(PMID: 23238855)。

 臨床的な印象にはなってしまうのですが、これらの炎症は弱いです。弱いというよりも、脂肪に対するミクロレベルの炎症(広義の炎症)を中和させるためにIL-6などのサイトカインが放出されていると考えています。
 つまり、ウイルス感染や炎症性疾患のように、特定の“抗原”に対して強い全身性炎症を惹起しているという様子なのではなく、単に“低めのIL-6血症”があるだけという様相です(TNFαとかも出ているはずですけど)。
 都合よくいえば、これが「肥満の人・脂肪肝の人が、無症状でCRP陽性のことがある」のメカニズムなのではないでしょうか。


 さあ、次は「今月の症例、どこに線を引きましたか?」に行きましょう!

 ちなみに「どこ引き」というのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、「何読み」の中のメインコーナーになっております。

 「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、

青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ

 で塗り分けるのでした。

 さあ始めますね。
 今月号は2例でした。
「齲歯を原因に多彩な中枢神経合併症を呈したLemierre症候群の1例」
「非感染性壊死性肺結節の出現を繰り返した難治性潰瘍性大腸炎の1例」

 個別にいく前にこれを見てどう思ったか言います。“弱拡” (じゃっかく, 一発変換不能)でみた時の感想ですね所謂。

  1例目の「齲歯を原因に多彩な中枢神経合併症を呈したLemierre症候群の1例」のほうはLemierre症候群を軸に、症候群の中でやや珍しい中枢合併症ついての記述。
 2例目の「非感染性壊死性肺結節の出現を繰り返した難治性潰瘍性大腸炎の1例」のほうは、潰瘍性大腸炎(UC)という比較的コモンなはずの疾患に、極端にレアな事象が起きたことの記述。

 ......こんなようにまず(タイトルだけで)私なら感じ取ります。
 それが何? と思うかもしれません。
 しかしこのviewに基づけば、1例目はまずLemierre症候群をしっかり拾おうと考え、その上で中枢合併症がどれくらいレアかを(中の)文献で確認しよう、となります。
 2例目は、UCはコモンだとしても、おそらく激レア症候の記述であるから日常診療でそれに対して“どこまで付き合うべきか”を考えていこう、となります。

 では1例ずつ見て参ります。


■p79, 齲歯を原因に多彩な中枢神経合併症を呈したLemierre症候群の1例

 まずこれです。

 この症例は、歯周病を悪くしそのさなかに発熱と意識障害をきたし、右片麻痺となって搬送されています。
 実際、頭部MRIで左前頭側頭葉、左後頭葉に炎症波及にみられています。この患者さんに見られた中枢合併症がこれらから来ていることは明白です。ちなみに臨床経過の中で結局この部位は脳膿瘍になっています。
 また、最初のMRAで左中大脳動脈の一部に描出不良になっていたという記述があり、「脳塞栓だろう」ということになっています。でもこれは動脈......この点だけはしみじみしましたが、他は非常に良い記述なケースです。

 結局入院後のワークアップで、左内頸静脈の血栓性静脈炎がしっかりとあり、同側で歯性上顎洞炎となっていました。しかも抜歯部分で上顎洞と口腔内が交通していたのです!
 血培も生え、また肺はseptic emboliのパターンであり、これらからLemierre症候群ということでよさそうです。

 で、考察部分の「中枢神経合併症の頻度は、Lemierre症候群全体の3%」というところにピンクのマーカーを引きました。

 ん?
 このケースレポート、記述の骨格が、

歯性上顎洞炎 → Lemierre症候群 → 中枢合併症

 になってますね。これは私の感覚と違います。私は、

歯性上顎洞炎 → Lemierre症候群

脳膿瘍(中枢合併症)

 だと思っています。

 というのも、Lemierre症候群の本質は「近傍から波及した細菌性炎症により内頸静脈(の鞘)に炎症が起き、そこからseptic thrombophlebitisを形成しつつ内頸静脈の縦方向へ進展しやがて病巣を作り、そしてこの病巣から内頸静脈へ乗って遠隔転移(塞栓)をきたすもの」だと思っているので、つまり塞栓子は静脈に乗って「内頸静脈の行き着く先」に飛んで行き塞栓をつくるはずです。

 すると内頸静脈はどこへ行きますか、最終的に。
 右房・右室になりますね。
 すると次にどこへ行きますか。
 そうです、三尖弁をくぐって肺動脈に乗って肺に行きます。だから肺にトラップされてseptic emboliを来すんですね。全部静脈血です!

 症例記述で1個感心したのは、ちゃんと心エコーのところに「中隔欠損症を示唆する所見なし」と書いてあったことです。これは素晴らしいです。
 つまり、中隔欠損症がもしあったら、右心に入った塞栓子が左へ行きかねないわけです(まあ行きかねないってだけですが)。この時初めて体循環に乗るので、つまりは動脈系の塞栓(例えば脳塞栓、腎梗塞など)を起こすわけです。
 難しいこと言ってませんよ。医学生レベル以下の、解剖学の話をしているだけです。
(まあプロ的視点で言えば、卵円孔開存の検討はしてほしいですよね......)

 Lemierreから来ているのではなく、歯性上顎洞炎がLemierreと脳膿瘍を起こしているのだと私は理解しました。

 1例目は、以上です!


■p87, 非感染性壊死性肺結節の出現を繰り返した難治性潰瘍性大腸炎の1例

 さて「どこ引き」の2例目です。

 このケースはいわゆる「よくある病気のまれな事象」というパターンです。
 簡単にいえばUC患者に、多発性の空洞を伴うやや大きめの結節性病変が起きて、検討したけれども無菌で他の疾患でもなかった。よってUC由来の病変と思われた、というものです。

 考察の部分は「お土産」としてかなり有用です。
 まずこの合併症は、レアすぎて、にまとめられてあるように8例しかありません。この表です、一番重要なのは。
 肺結節は、多発し、4 cm以上とやや大きく、空洞を作り、ステロイドに反応する。そういう傾向があるそうです。
 UCの腸管病変との関係はまちまちだそうです。

 これは......
 非常に良い記述ですが、実際はこんな肺病変ができたら普通に気管支鏡まで含めた検討をし尽くすはずですから、臨床的には迷うも何も、鑑別も何も......という感じです。
 しみじみまではしませんが、現象として知っておくと良いという感じです。

 1つびっくりしたのは、これが高崎総合医療センターで2例目だというところです!!!!
 私はこういうのを聞いて思うのは、怪しむ気持ちではなく、多分ですが「一度経験しているとその目でみるというまさに“その目”を持てる」ということなのだろうと思います。
 この点は極めて示唆的です。

 なので!
 この病態(IBDに伴う非感染性壊死性肺結節)は、一般には過小評価されていると思います! Underdiagnosisというやつです。
 この症例報告はきっと有用です。なのでちゃんと読んでおいてください。
 今月以降、2020年以降、IBDに伴う非感染性壊死性肺結節の報告例は増加するはずです。

 Check it out!


 それでは今日はこの辺で!

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