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基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(31)

[第31回]Pseudomonas aeruginosaの臨床像と耐性機構①

西村 翔 にしむらしょう
神戸大学医学部附属病院感染症内科

(初出:J-IDEO Vol.6 No.2 2022年3月 刊行)

ここまで数回にわたって,菌種から離れたコラムのようなハナシをしてきましたが,今回から本道に戻ります.まずはブドウ糖非発酵菌の代表,P. aeruginosaです.

P. aeruginosaの分類および同定

●Pseudomonas属の分類

P. aeruginosaは幅0.5~1μm,長さ1~3μmの,1本の鞭毛(極単毛)を持つ運動性,偏性好気性のグラム陰性桿菌です.感染した部位を青~緑色へと変色させ,独特の匂いを放つ感染症として1880年代からその存在を知られていたP. aeruginosa感染症ですが,菌自体は1882年にフランスの薬剤師Gessardによって,変色した包帯が巻かれた軍人の創部の膿から初めて分離され,当初はBacillus pyocyaneusと命名されました(実はその前にドイツの微生物学者Schroeterによって複数の環境から分離され,1872年にBacterium aeruginosumとして報告されていたとする説もあります)【1】.1894年にドイツの植物学者Migulaによって初めてPseudomonas属が確立され,これはギリシャ語で“偽の”を意味するpseudoと,“単位”を意味するmonasに由来しており,おそらくこの菌種のサイズや運動性が,非鞭毛性の原生動物であるMonasの細胞とよく似ていたためと考えられています.1900年には同じくMigulaによって現在の菌名であるPseudomonas aeruginosaが確立され,このaeruginosaはラテン語で,銅の表面が錆びた際に生じる緑青色(炭酸銅)を意味しており,これは菌の生成する特徴的な色素を表しています.
 当時のPseudomonas属は,1970年代になってPalleroniらによって,rRNA-DNAのhybridization技術を用いてGroup Ⅰ~Ⅴに分けられ【2】,そのうちのGroup ⅠのみがPseudomonas属に残り,Group ⅡはBurkholderiaおよびRalstonia属,Group ⅢはComamonas,Acidovorax,Delftia,Hydrogenophaga属,Group ⅣはBrevundimonas属,Group ⅤはStenotrophomonas属へと再分類されました.現在,Pseudomonas属には269菌種(2021年10月27日時点)が属しています【3】が,ヒトへの感染という観点から臨床的に重要なのは12菌種に過ぎず,これらは蛍光色素pyoverdine産生の有無に基づいて,P. aeruginosa,P. fluorescens,P. putida,P. veronii,P. monteilii,P. mosseliiの蛍光性菌群と,非蛍光性のP. stutzeri,P. mendocina,P. alcaligenes,P. pseudoalcaligenes,P. luteolaおよびP. oryzihabitansの2群に大別されます【4】.蛍光色素pyoverdineは,黄色~緑あるいは黄色~茶色がかった色素(紫外線下では青緑に蛍光)で,P. aeruginosaの産生する別の色素であるpyocyaninは緑~青色の色素であり,これら2つが組み合わさることで,P. aeruginosa特有の明るい緑色が形成されます.このpyocyaninを産生するのはPseudomonas属のなかでP. aeruginosaに限られるため,Pseudomonas属の他菌種で同様の緑色を呈することは稀であり,P. aeruginosaとその他の蛍光性の菌群との鑑別点と言えます.なお,P. aeruginosaは赤色のpyorubin,黒褐色のpyomelaninなどの色素を産生する場合もあります.

●P. aeruginosaの同定法

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