和足先生_記事

失敗から学ぶウラ診断学(4)

失敗から学ぶウラ診断学(4)
[第4回]メタ認知で己を知る
和足孝之 Takashi Watari
島根大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター

誰もが臨床の場で経験する「やっちゃった」,「しくじっちゃった」という負の財産を明日からの実力に転化する.そのためのとっておきのノウハウを伝授します.


はじめに

~心の持様は,常の心にかはる事なかれ.常にも,兵法の時にも,少もかはらずして,心を広く直にし,きつくひっぱらず,少もたるまず,心のかたよらぬやうに,心を直中に置て,心を静にゆるがせて,其ゆるぎの刹那も,ゆるぎやまぬやうに,能々吟味すべし~
(宮本武蔵『五輪書』水の巻より)

 深まる秋,食欲もそうですが,やはり僕にとってはウラ診断学に思いを馳せる絶好の秋であると思います.旧暦10月は全国の八百万の神々がココ出雲国に集まる月です.古典で習ったように神様が留守になるので普通は神無月といいますが,ココでは神在月(かみありづき)と呼ばれています.さて,神といえば,いよいよこの連載の本質的なところに入ってきた感があるはじめの言葉.あの神的な剣豪の登場ですね.実は僕,熊本の宮本武蔵の墓の近くの中学校に通っていたことがあるので,宮本武蔵のその生涯,そしてその思考方法がいかにわれわれのような医学に求道心を燃やす者と似ているかを日々感じてきました.そんな理由から,この連載のイメージは宮本武蔵風にしていただいております.
 前回までの話を要約すると,医師である僕らは必ず診断エラーを起こします【1】.まずそこが前提となって,欧米諸国を中心に研究が進んできました.そして診断エラーの原因の一つとして,認知バイアスがかなりのネガティブインパクトを与えているというものでした.ここが前回までのお話です.皆さんはどのような認知バイアスに影響されやすいですか? 僕の自らの振り返りでは,よく自分が遭遇する認知バイアスは一発診断をしてしまい思い込みで間違ってしまう場合(アンカリングバイアス)と,インフルエンザ流行期などに検査前確率から安易に判断してしまう利用可能性バイアス,そして当直明けや疲れているER勤務で通常の診断プロセスがかなり雑になってしまうハッスルバイアスなどで,毎日のように遭遇しています.これって,自分の研究結果でもそうですし,他国の先行研究などでも同様なんですよね【2,3】.医師だって人間なのでだいたい同じ穴にハマるといったところでしょうか.
 認知バイアスが日本の臨床現場で医学用語として広まり始めたのはつい最近のように感じます.認知バイアスに対して実験的な手法を用いたエビデンスが現れ出してまだ40年程度しかたっておりません.しかし,われわれ医師は診断プロセスのなかにこの認知バイアスが混入してくることをはるか昔からうっすらと認識しておりそれに対して数々の優れた臨床家たちによってあらゆる戦術や戦略が練られてきていたことに今頃気付かされます.

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