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研修医のための微生物レクチャーシリーズ グラム染色所見と培養結果からどう考える?(18)

[第18回]グラム陽性桿菌編③

黒田浩一 くろだ ひろかず
神戸市立医療センター中央市民病院感染症科

(初出:J-IDEO Vol.6 No.4 2022年7月 刊行)

前回の連載では,代表的なグラム陽性桿菌であるBacillus属について説明しました.今回は,もう一つの代表的なグラム陽性桿菌であるCorynebacterium属について解説していきます.


1.Corynebacterium属の微生物学的特徴

Corynebacterium属は,ヒトの皮膚・粘膜の常在菌であり,動物・土壌にも存在します【1~4】.約80の種(species)が知られていますが,そのうち約50種がヒトに対して病原性を持っていると考えられています【2】.

1.分類【2,3】

Corynebacerium diphtheriae(C. diphtheria:ジフテリア菌)は有名な細菌ですが,本邦で検出されることはほぼありません.ジフテリアは,アフリカ,中南米,アジア,南太平洋諸国,中東諸国,東欧などで発生しています.C. ulceransは,人獣共通感染症を起こす細菌であり,ウシ・ヒツジ・ネコ・イヌとの接触,生の乳製品の摂取などで感染します.この菌による感染症は日本でも稀ですが報告されています.ジフテリアと似た症状を呈することが多く,感冒症状,咽頭痛,咳がみられ,その後,扁桃や咽頭に偽膜を形成します.重篤な場合は呼吸困難を呈して死に至ることもあります.頸部リンパ節腫脹や皮膚病変がみられることもあります.
 臨床現場でよく経験するのは,C. striatumです.皮膚の常在菌であり,カテーテル関連血流感染症(catheter-related bloodstream infection:CRBSI)の原因となることが多いですが,感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE),肺炎・膿胸,髄膜炎(脳室-腹腔シャントと関連することが多い),骨関節感染症,創部感染,腹腔内膿瘍,腹膜炎の原因にもなります【1,2】.その他,臨床的に重要な菌種は,C. jeikeium(鼠径部,直腸周囲,腋窩によく分布している皮膚常在菌で,血液悪性腫瘍患者の血流感染症の原因となる),C. riegelii・C. urealyticum(尿路感染症の原因となる),C. kroppenstedtii(乳腺炎の膿汁から分離されることがある)があげられます.以下,日本の臨床現場で経験する可能性の高いジフテリア菌以外のCorynebacterium属について説明していきます.

【重要】検出頻度が高いのは,C. striatumであり,主にCRBSIの原因となる.

2.主な微生物学的特徴

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