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呼吸器感染症よもやま話(29)

[第29回]いつも悩ましい,片側大量胸水

倉原 優 くらはら ゆう
国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科

(初出:J-IDEO Vol.5 No.6 2021年11月 刊行)

抜くか・抜かないか

高齢化社会を迎えつつありますが,胸水症例が増えている気がします.あくまでそういう気がするだけであって,エビデンスはまだありません.おそらくこれは滲出性胸水の増加をみているのではなく,高齢化による漏出性胸水をみているのだろうと確信しています.
 呼吸器内科的には,「感染症の可能性はないか?」と問われることが多いです.
 超音波を当てれば,かなり安全に胸水穿刺が可能ですが,気胸のリスクがこわいということで,あまり呼吸器内科以外では実施されていないかもしれません.そもそもどういう症例に試験穿刺をすべきかというデシジョンメイキングにはエビデンスがありません.私見を書くと,「抜けそうな胸水は抜いてみる」が鉄則だと思っています.まったく無症状で元気はつらつな患者さんはどうかと問われると,ケースバイケースとしかお答えできませんが,基本的には胸部単純X線写真で同定できる胸水は,全例試験穿刺の適応にあると考えています

UpToDateには「The indication for diagnostic thoracentesis is the new finding of a pleural effusion.」とシンプルな記載がある.

胸水があるだけで,悪性疾患の検査前確率が高くなりますので,胸部CTは行っておいたほうがよいです.肺内に気道散布影があれば,結核かな?,腫瘤影・多発性結節があると,悪性腫瘍かな? というあたりがつきます.
 胸水の試験穿刺ができるか否かの判断はきわめて重要です.超音波で走査してもエコーフリースペースが少なく穿刺できないと判断されれば,胸水以外のデータを用いて臨床行動を起こす必要があります.肺炎随伴性胸水や膿胸らしければ経験的治療を導入し,癌性胸膜炎を疑えば積極的に原発巣を探し(ほとんどが肺癌です),結核性胸膜炎を疑えば喀痰検査・胃液検査を繰り返しインターフェロンγ遊離試験の結果と総合して経験的治療を導入するかどうか判断するということになります.

片側胸水の疫学を知っておく

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