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研修医のための微生物レクチャーシリーズ グラム染色所見と培養結果からどう考える?(9)

[第9回]グラム陽性球菌 ⑨

黒田浩一 くろだ ひろかず
神戸市立医療センター中央市民病院感染症科

(初出:J-IDEO Vol.4 No.4 2020年7月 刊行)

 前回の連載では,B群レンサ球菌が起こす感染症とその治療について説明しました.今回は,β溶血性レンサ球菌のひとつであるC群レンサ球菌(Group C Streptococcus, GCS)またはG群レンサ球菌(Group G Streptococcus, GGS)による感染症とその治療について解説します.

(1)C群レンサ球菌・G群レンサ球菌(≒SDSE)総論

1)Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis(SDSE)とは?
 GCSとGGSは,一般的には,血液寒天培地上でβ溶血を示す大きなコロニー(5 mm以上)を形成し,LancefieldのC群またはG群抗原を保有するグラム陽性球菌を指します【1,2】.コロニーの見た目はA群レンサ球菌に似ています【1】.ヒトに感染するGCSとGGSのほとんどは,遺伝子的に同一の細菌であり,Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis(SDSE)と呼ばれます【2~4】.また,SDSEからみた場合,ほとんどの株はC群またはG群抗原を持っていますが,稀にA群抗原を持つことがあります【1,4~6】.
 SDSE以外のGCSまたはGGSには,動物由来のGCSであるStreptococcus equi subsp. equi, S. equi subsp. zooepidemicus,動物由来のGGSであるStreptococcus canisなどがありますが,ヒトに感染を起こすことは稀で,GCS・GGSによる感染症全体に占める割合は非常に小さいため,読者の皆さんが経験することはほぼないと思います【1,3】.また,Streptococcus anginosus groupは,一部の株でコロニーがβ溶血を示し,CまたはG群抗原を持つものが存在しますが【5】,この菌群をGCS・GGSと呼ぶことはありません.Streptococcus anginosus groupは,血液寒天培地上のコロニーの大きさが5 mm未満であり,明らかに見た目が小さいため,SDSEとの鑑別は容易にできます.
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【重要】GCS・GGS≒SDSE
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 最初に「C群レンサ球菌・G群レンサ球菌」と紹介しましたが,この単語を使用した場合,「LancefieldのC群またはG群抗原を持った血液寒天培地上でβ溶血を示すStreptococcus属(複数の菌種を含む)」を指しているのか,「SDSE」を指しているのかわかりにくいため,いわゆるGCS・GGSについて述べる場合は,「SDSE」を使用することをお勧めします(おそらく,多くの病院の微生物検査室は,菌種名であるStreptococcus dysgalactiae subsp. equisimilisで結果を報告していると思います).
 2000年代までの報告では,GCS・GGSで検討されているものが多いですが,それ以降の論文では,SDSEで検討されているものが多いようです.本稿では,引用した文献の記載になるべく沿いつつ,基本的には「SDSE」を使用していきます.Streptococcus属の分類は,文献2に詳しく記載されているため,興味のある方はご一読ください.

2)SDSEによる感染症
 SDSEは,皮膚軟部組織感染症(skin and soft tissue infections, SSTI)(蜂窩織炎・創部感染・丹毒・壊死性筋膜炎)の原因微生物として臨床現場で出会うことが多いと思います.そのほか,咽頭炎,菌血症,感染性心内膜炎(infective endocarditis, IE),関節炎,骨髄炎,肺炎,腹膜炎,腹腔内膿瘍,髄膜炎,劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock-like syndrome, STSS)などの原因となります【1,4,7】.
 SDSEの起こす感染症は,A群レンサ球菌(Group A Streptococcus, GAS)による感染症と臨床像が似ています【4,7】.また,SDSEは,GASと同様の病原性因子(virulence factor)【7,8】を複数保有していることが知られています.病原性因子についての詳細は,文献7などを参考にしてください.病原性は,GASのほうが高いと考えられていますが,SDSEによる感染症に罹患する患者群が,高齢かつ基礎疾患を持つ割合が高いため,この2つの菌による侵襲性感染症の致死率はほぼ同等です【4,9】.

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