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研修医のための微生物レクチャーシリーズ グラム染色所見と培養結果からどう考える?(13)

[第13回]グラム陽性球菌編 ⑬

黒田浩一 くろだ ひろかず
神戸市立医療センター中央市民病院感染症科

(初出:J-IDEO Vol.5 No.3 2021年5月 刊行)

 前回の連載では,腸球菌(Enterococcus属)による感染症の治療について説明しました.今回は,Viridans Group Streptococciについて解説します.

1.Viridans Group Streptococci(VGS)の特徴

 VGSは,中咽頭・消化管・皮膚などに常在し,β溶血性レンサ球菌と比較すると病原性が低いα溶血性レンサ球菌の1種です【1】.傷害を受けた心臓弁への感染(感染性心内膜炎infective endocarditis:IE)とがん薬物療法中の好中球減少症の患者における菌血症で問題となりますので,主に血液培養から検出された場合に,「対応」が必要となる細菌です(後述しますが,皮膚の常在菌であるため,必ずしも真の菌血症とは限りません).
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【重要】VGSは中咽頭・消化管・皮膚の常在菌である
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【重要】主に血液培養で検出された場合に「対応」が必要となる
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 グラム染色では,chainを形成するグラム陽性球菌(Gram-positive cocci in chains:臨床現場では「GPC chain」と呼ぶことが多い)として観察されます.
 “Viridans”は,ラテン語で「緑」を意味しており,「緑色レンサ球菌」とも呼ばれます.現在,“Viridans Group Streptococci”は,細菌の正式な名称ではありませんが(30種類以上の菌種に細分類されています),臨床現場では慣習的に使用されることが多いと思います【1】.

【補足】
 Streptococcus属を血液寒天培地で培養すると,発育したコロニーの周辺の培地に含まれる赤血球が溶血して,コロニー周辺の培地の色が変化し,その程度によって,β溶血,α溶血,γ溶血の3種類に分類されます.β溶血は,コロニーの周囲に境界明瞭な透明帯が生じるもの(完全溶血)で,β溶血性レンサ球菌(A群レンサ球菌など)でみられます.今回のテーマであるVGSの大半は,コロニー周辺に狭く境界不明瞭でやや緑がかった溶血帯が生じるα溶血(不完全溶血)を示します[図1].γ溶血は,コロニー周辺の培地が溶血せず無変化なものをいいます(非溶血性).β溶血を示す細菌の病原性が高く,α溶血のものは病原性が低いことが一般的です.例外は肺炎球菌で,α溶血を示しますが,病原性が高いことが知られています.

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