見出し画像

呼吸器感染症よもやま話(18)

[第18回]微生物の名前になった,新宿,滋賀,愛知,熊本……

倉原 優 くらはら ゆう
国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科

(初出:J-IDEO Vol.4 No.1 2020年1月 刊行)

無数とは言わないが,
めちゃくちゃ多い非結核性抗酸菌

 正確な数は把握できていませんが,国際的に登録されている非結核性抗酸菌(non—tuberculous mycobacteria,NTM)の菌種名は200近くあって,もはやその名前を全部覚えている人は世界に1人か2人くらいしかいないんじゃないかと思う今日この頃.
 最近,Mycobacterium shigaenseという稀なNTMに罹患された患者さんがいました.いやあ,珍しい! という以前に,そもそもこの菌名を聞いたことがない.すると,感染症カンファレンスで,上司が「滋賀で発見されたからシガエンセなんだ」と教えてくれました.なるほど.
 NTMの命名って結構テキトー……じゃなくて,シンプルにつけられていることが多く,地名や人の名前が入っていることがよくあります.今日は,そんな面白いNTMをいくつか紹介しましょう.

人名が入ったNTM,M. shimoidei

 50年ほど前,NTMの世界では有名な束村道雄先生が,結核のような空洞がみられた男性患者から,それまで知られていなかったRunyonⅢ群菌を分離し,共同研究されていた下出久雄先生の名前からM. shimoideiと命名しました.しかし,当時1例のみの分離であったことから,採用無効となってしまいました.
 その後,オーストラリアで分離された菌が新しいM. shimoideiであることがわかり,1982年に正式にこの菌がNTMと認められました.

滋賀で発見,M. shigaense

ここから先は

2,425字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?