見出し画像

研修医のための微生物レクチャーシリーズ グラム染色所見と培養結果からどう考える?(12)

[第12回]グラム陽性球菌編 ⑫

黒田浩一 くろだ ひろかず
神戸市立医療センター中央市民病院感染症科

(初出:J-IDEO Vol.5 No.1 2021年1月 刊行)

 前回の連載では,腸球菌(Enterococcus属)による感染症について説明しました.今回は,腸球菌による感染症の治療について解説します.

腸球菌による感染症の治療

1.薬剤感受性
 E. faecalisはほぼ100%の株がペニシリンとアンピシリンとバンコマイシンに感性です.一方,E. faeciumは通常ペニシリン/アンピシリン耐性(感性率約10%)で,バンコマイシン感性(感性率98%以上)です【1,2】.
 日本では,バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci:VRE)と判定されるE. faeciumとE. faecalisは非常に稀で,ほぼ臨床現場でお目にかかることはありません.バンコマイシン耐性判定されるEnterococcus属のほとんどは,E. gallinarumとE. casseliflavusであり,バンコマイシンに対して内因性に低レベル耐性〔バンコマイシンに対するMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)は8~16μg/mLのことが多い〕を持っています.ちなみに,通常アンピシリン,ペニシリン,テイコプラニンには感性を示します.染色体上にvanC遺伝子をもち,伝達性はないため,院内感染対策は不要です.一方,バンコマイシン耐性E. faeciumは,トランスポゾン中に存在するvanA遺伝子が原因であり,伝達性があるため,接触予防策が必要です.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【重要】E. faecalisはアンピシリン感性,E. faeciumはアンピシリン耐性
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

2.Enterococcus菌血症における感染症科コンサルテーションの効果
 Enterococcus菌血症に対して,早期に感染症科コンサルテーションを行い,感染症科チームが「陰性化確認まで48時間おきの血液培養再検」「感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)検索のための心エコー」「最適な抗菌薬の推奨」を行うことによって,30日死亡が減少(32%→20%)することが示されています【3】.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【重要】Enterococcus菌血症をみたら感染症科にコンサルテーション!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ここから先は

12,846字 / 3画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?