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失敗から学ぶウラ診断学(5)

失敗から学ぶウラ診断学(5)
[第5回]氷山の下を見よ
和足孝之 Takashi Watari
島根大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター

誰もが臨床の場で経験する「やっちゃった」,「しくじっちゃった」という負の財産を明日からの実力に転化する.そのためのとっておきのノウハウを伝授します.


はじめに

The mind is like an iceberg, it floats with one-seventh of its bulk above water.
心とは氷山のようなものである.氷山は,その大きさの7分の1を海面の上に出して漂う.
(ジークムント・フロイト)

 前回までは,「われわれ医師は必ず間違えている」という認識のもと,なぜそのような診断に関する悪い事象が起こるのか,そしてそれにどのように対策をしていくのかということに対して,自分なりに楽しく先行研究を噛み砕きお話ししてきました.やっぱり,診断エラーに遭遇する要因としては認知バイアスの占める要素がとても大きく,われわれはかなり外的環境に影響を受けているのですね.さて,今回の冒頭の言葉には僕が敬愛するフロイト様が降臨されました.僕の人生で,この方の影響は大きいです.僕は若かりし頃,教育学部から理学部,基礎医学の研究から医学部へ編入するなど,よくわからない奇行を繰り返し,医学とは関係ない本を読み,ひっそりと目立たずに暮らすことがカッコイイと思っていました(多少盛っています).当時,なんとスナックの2階に住んでおり,23時におじさんたちのカラオケがすごく楽しそうで(うるさくて)終わるまでの間はヘッドホンで音楽を聞きながら隣の古本屋で50円とか100円で買った本を読むという生活をずっとしていました.そこでこのフロイト先生の『精神分析入門』を読んでいたのを思い出します.さて前置きが長くなりましたが,フロイト先生は「心とは氷山のようなものである」と言っています【1】.実は,2012年頃から僕が考えていたウラ診断学の基本的なマインドセットってこれなんですね.見えているものに気付くことができるか? いや,見えないものに気付くことができるか? さらにはわれわれ医師が見ているものは真実なのだろうか? そういうマインドセットが臨床や研究ではたぶんすごく重要で,大事なアイデアは往々にして,氷山の海面の下に潜ってしまって見えていない部分,リアルな真実は暗い海の中にあるように思います.

自分の間違いこそ気付きにくいもの

 僕の自己流の見解をお話しするのではよくないので,今回は臨床のウラ側を少し深くみてみましょう.僕らは必ず診断を間違えます,いや,間違っていることすら気付けないことも多いかもしれません.この連載の当初から光の当たる診断のかっこいい部分だけでなく,ウラ側も学ぶというコンセプトでお話ししてきましたが,そもそもこの分野の研究は医療安全領域のなかで最も遅れています.医療界ヒエラルキーの頂点にいる医師の闇の部分をワザワザ明るみに出すことは愚の骨頂であり,自己防衛に走れば普通はしませんし,日本ではなおさら,臭いものには蓋をして建設的フィードバックが難しいという文化的(?)背景がありますので,社会医学研究の対象として確立するのがきわめて難しいバックグラウンドがあったのかもしれませんね.

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