見出し画像

基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(1)

[第1回]耐性菌時代に改めて考える薬剤感受性検査の読み方,考え方

西村 翔 にしむら しょう
神戸大学医学部附属病院感染症内科

(初出:J-IDEO Vol.1 No.1 2017年3月 刊行)

今回の連載にあたって

 “薬剤耐性菌”……最近,さまざまな媒体でこの言葉をみかけるようになりました.2016年の伊勢志摩サミットで薬剤耐性菌対策が取りあげられてから,この言葉は非医療者にまで普及しつつあり,日本でも2020年に向けての具体的な目標が設定され【1】,薬剤耐性菌への対策は待ったなしの状況まできています.なぜこのタイミングで薬剤耐性菌が注目されるようになったのか? 簡単に述べますと,感染症の歴史は1941年にペニシリンが臨床現場で利用されるようになって以降,耐性菌が出現してはそれに対する新規抗菌薬が開発されるイタチごっこが繰り返されてきましたが,1970年代以降,新規抗菌薬の開発ペースは極端に低下してしまいました.一方で新規の耐性菌は次から次へと発生しています.この耐性菌の増加とそれに対する新規抗菌薬の開発のバランスが崩れているため,ここにきて耐性菌が注目され,抗菌薬の適正使用が叫ばれるようになってきたのです.
 しかし,いざ薬剤耐性菌に関して勉強を始めようと思っても,どこから手をつけてよいものか,けっこう苦労するのではないかと思います.海外の教科書を読みつつ,文献を漁りつつ,各国の耐性菌に関するガイドラインを読みつつ日々精進……といったかんじでしょうか.なぜなのでしょう? 新しい耐性菌が次々と生まれてくることで知識のブラッシュアップが追いつかないこともありますが,もうひとつの大きな理由としては,耐性菌について(特に日本語で)系統立って記載され,取りまとめられたツールが著しく不足しているためだと私は考えています.言い換えると耐性菌に関して,臨床に即して記載されたものがほとんどないということです.ここで大事なのは“臨床に即した”というところです.基礎医学レベルでの耐性菌の記載は散見されるのですが,それがうまく臨床に昇華されていないジレンマがあります.そこで,この連載ではその基礎レベルの話と臨床レベルの話をうまくブリッジングすることを目標に話を進めていきたいと思っています.

ここから先は

7,862字 / 5画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?