國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.12
國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.12
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長
今回は2020年の6月号です。
今月の内科学会雑誌の特集は、「睡眠時無呼吸症候群」です。
「私(國松)、日頃から睡眠時無呼吸症候群を診ています」
......これはダウトです。
だから読むのをpassするのか。つまり、自分の専門以外は関係ないので読まなくていい、のか。
それは違うと思います。
そういう題材こそ目を通すべきなのです。特に雑誌では。
ただ、億劫ですよね。
例えば血液内科の専門医の先生。週末に入る直前になって入院患者さんが敗血症になって挿管になってしまって。
それで休日出勤。ふらっと寄った医局の郵便受けに溜まりに溜まった郵便物。合間に整理しようと思ってその中にあった未開封の内科学会雑誌を(3ヶ月分)見つける......
読みたくないですよね。
「新時代の骨髄腫治療!」
とかいうタイトルならともかく。
「睡眠時無呼吸症候群」
とか言われてもね。
この「何読み」noteは、そんな先生のためにあります。
私が、読んで欲しいとこ、教えてあげます。
さて今号ですが、正直私もダルくて、ささっとパラ見して「今月の症例」に行ってしまおうかと思いました。
でも読みます!!(STAP風)
......というわけで、慌てて予定を変えて、今月の特集を読んでみることにしました。しばらくお待ちください。
(通読中)
お待たせしました。
私の場合まずeditorialを読むんですよ。なぜなら、editorialは差が出て面白いからです。
そう思ったことありますか?
どっちでもいいんじゃない? 誰が書いても同じじゃない? と思うかもしれません。でも、editorialは差が出ると思います。恐いですね。
今回のeditorialは残念ながら凡庸でつまらないものでした。
しかし凄かったのは、本編最初の記事の「I. 睡眠時無呼吸症候群の病態」(p1052-,中山秀章)でした。
この論文は秀逸でした。これが今号の本編の中で一番の必読論文だと思います。
なんというか、「私は睡眠時無呼吸症候群のことなど何一つわかっていなかった」ということを思い知らされる記事でした。
色々な要点があるのですが、キーワードは上気道開大筋だと思います。
p1054「4. 覚醒しやすさ」の項は必読です。睡眠時無呼吸症候群の認識が変わります。
これ以降の記事も良いもの揃い。この一冊で良い書籍、レビューブックになりますのでいわゆる保存版号ですね。
他には、個人的な関心になりますが「炎症性腸疾患の治療の最前線」(p1145-)なる、いかにも的な記事もありました。
潰瘍性大腸炎に対する顆粒球除去療法(GCAP)ってまだあるんですね。
さて「今月の症例」については今月号は2例ありました。では見て参ります。
今月の「どこ引き」の始まりです!
あ、
ちなみに「どこ引き」というのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、弊note「何読み」の中の名物コーナーになっております(自称)。
「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、
青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ
で塗り分けるのでした。
まず1例目です。
■p1124 リツキシマブが有効であった多発血管炎性肉芽腫症に伴う肥厚性硬膜炎の1例
はい、いつものように最初にタイトルをみます。
まず、「多発血管炎性肉芽腫症に肥厚性硬膜炎を伴う」ことはあります。これは教科書的なレベルの知識です。
「リツキシマブが有効であった」とありますが、リツキシマブは多発血管炎性肉芽腫症に今や保険適応となっています。
それで報告論文になる。
うーん。
よほど他に新規性やメッセージ性がないと普通、一論文として成立しにくいのですがどうでしょうか。
というかもしそういう新規性やメッセージ性があるならそれが論文タイトルになるはずです(でも、この論文にはない)。
うーん。読む前から少し微妙な気持ちになりますね!!
はい読みました!
この論文は、
「多発血管炎性肉芽腫症を診断・治療したことがない医師が、多発血管炎性肉芽腫症のことについて知るには非常に良い論文」
でした!
こういう勉強の仕方は、嫌味でもなんでもなく「アリ」でして、これこそが症例報告をとにかく読むということの効能なんです。
NEJMのReview Articleが全てではないのです。さあNEJMやUpToDate®を捨てて、内科学会雑誌へ!!(パーソナリティが不安定な極論)
......1例目は、以上です! では2例目に参ります。
■p1130 ドパミントランスポーターシンチグラフィで線条体の集積低下を示した糖尿病性舞踏病の1例
さて「どこ引き」2例目です。今回もまずタイトルを見てみましょう。
まず「ドパミントランスポーターシンチグラフィ」というのは、いわゆるダット(DaT)スキャンというやつです。ダットスキャンは、言ってしまえば商品名です。
ドパミントランスポーターシンチグラフィは、例えばこのサイト(http://www.hosp.ncgm.go.jp/s037/130/110/scinti_11.html)にもあるように、要はパーキンソン病が疑われるかもしれない患者さんに実施する意味がある検査でした。
この点からすると、今回の論文は新規性があります。なぜならこの症例では「糖尿病性舞踏病」に対してこのドパミントランスポーターシンチをやっているわけですから。
タイトルだけでちょっと興奮するってもんです。
パーキンソン病・レビー小体型認知症は、ご存知のように黒質線条体のドパミン神経細胞が変性する疾患です。
この疾患では、神経終末に存在するドパミントランスポーター密度が低下していることが知られていて、ドパミントランスポーターシンチはこのことを原理として利用しています。
標識として123I-イオフルパン(ダットスキャン®)を使うと、線条体(尾状核と被殻)のドパミントランスポーターにトレーサーが高く集積して、その分布密度に応じたSPECT画像が得られるというわけです。素晴らしいですね。
正常では線条体に高い集積を示しますが、パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者さんのように線条体における機能低下がみられると、集積パターン(SPECT上の形状)が変わり、さらに低下すると集積が低下〜消失します。
このことを知っておくと、この症例報告を読む前にタイトルから、
「ああ、糖尿病性舞踏病の人にダットスキャンをすると、パーキンソン病の人と同じように集積低下するのか!」
と思えてくるので、かなり読むのが楽しみになります。
しかも、さらに発展的に考えたくなります(はい、またしても“読む前“ですよ?)。
糖尿病性舞踏病というのは、めちゃ高い(or 鬼高い)HbA1cの人、あるいはそういう人を治療することで急に血糖を変動させてしまうような臨床過程で起こることが多いのです。
とはいえ血糖は下げたいですよね。でも糖尿病性舞踏病は発症させたくない。
......ということは?
めちゃ高い(or 鬼高い)HbA1cの人にもしダットスキャンをしたら、糖尿病性舞踏病の発症リスクを予見できるかも!
と思ってしまうわけです。
つまり、この論文(どこ引き2例目)を読む前から、タイトルを読んだだけで次なる臨床研究の種が見つかってしまったわけです(違)。
実は研究者というのは、研究の着想に独創性が必要なのをわかっていて、いつもそういうものを探しているらしいです。
ただ研究者自身は臨床現場にいないということもまた理解していて、私のような臨床屋からのネタ開陳を実は望んでいるらしいのです。どうぞどうぞ。
今回の症例は44歳男性。
HbA1cは15.7%!(やっぱり)
3年前から糖尿病はあったようですが1年で自己中断。
治療介入後ではなく、いきなり舞踏病が発症してその5日後に入院になっています。まあHbA1c 15パーですからね......
経過は幸い、糖尿病の治療とともに舞踏病は数日〜1週間くらいの経過で改善。
注目のドパミントランスポーターシンチは、まだ一応舞踏病症状のある時期に実施されているようです(消失する2日前)。
ドパミントランスポーターシンチの結果は「右線条体の集積低下」でした。
考察に入ってからは、専門医による怒涛のレビューです。
最新知見に基づいた「糖尿病性舞踏病」の良いミニレビューになっています。非常に読み応えがあり、逆にいえば多忙な非神経内科専門医がさらっと読むにはタフです。
ただこの一例で、糖尿病性舞踏病の病態生理に迫らんとするその迫力は、まさに臨床医の凄みなのだと思います。
「え、保険適応は?」
とかいうツッコミは野暮です。
たった一例からとてもつもなく多くのことを学び取れる内容が素晴らしく、読後感も気持ちよく、印象的な論文でした。ありがとうございました。
経験した一症例をどう深めるかは、臨床医の腕次第な気がしてきました。
同じ症例経験でも、関数 f(x)の形は全然変わってくるのだなと思った次第です。
微分したり、2回微分したり、変曲点を求めたり、積分したり、ある条件下で最大値・最小値を求めたり…...
それでは今日はこの辺で!
あ、セルフトレーニング問題今年はやらなきゃ......(内科学会員にしかわからないメタメッセージ)
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