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突破口 感染症診療の「難問」に答えはあるか(新連載)

[第1回]HPVワクチン問題に「答え」はあるか.
岩田健太郎 いわた けんたろう
神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学教授

(初出:J-IDEO Vol.4 No.4 2020年7月 刊行)

総合内科指導医S「あ,D先生」
同じく総合内科指導医D「おはよう,S先生」
S「D先生は,もともと感染症専門医と総合内科専門医を持ってたんですけど,前にいた病院がなんだかんだで居づらくなって,最近うちの病院の総合内科医として赴任されたばっかりなんですよね」
D「誰に向かって説明してんの?」
S「読者サービスです.時にD先生,HPVワクチンも最近はめっきりメディアに出てこなくなりましたね」
D「これまた唐突な話題の振り方だね」
S「時間もないので,違和感なく本題に展開する前フリなんてありません」
D「ま,メディアというのは『めったに起きないこと』には大きく反応するのだけれど,『いつも起きていること』はほったらかしなんだな.自動車が暴走して歩行者を撥ねた,みたいな事態はめったに起きない.めったに起きないことだから,社会への本質的インパクトも小さいし,対策だってそんなに徹底する必要もない(しなくていいとは,言わないが).それよりも『いつも起きていること』の対策こそがわれわれが一所懸命に注力すべきことだ.たとえば,子宮頸がんがそうだ」
S「でも,メディアはめったにないことしかニュースにしないから,いつもの問題はほったらかしってことですね.そりゃ,ニュースにならないわけだ」
D「ニュースにならない理由はもう一つある.それはメディアが『HPVワクチンの副作用』問題として,いろんな症状に苦しむ人たちをクローズアップし,大々的に問題視してしまったことにある」
S「そうですね」
D「多くの人がそうであるように,メディアもまた自らの過ちは認めたくないものだ」
S「やっぱ問題は,副作用ですか」
D「おそらく,論点は2つだ.

  1.HPVワクチンは効くか
  2.HPVワクチンは安全か

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