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Dr.岸田の 感染症コンサルタントの挑戦(12)

Dr.岸田の 感染症コンサルタントの挑戦(12)
第12回 Process 3 病院ごとのニーズに合わせた介入
岸田直樹 きしだ なおき
感染症コンサルタント
北海道科学大学薬学部客員教授


はじめに

 前回まで4回にわたって多職種に必要な感染症の臨床推論に関して述べてきました.臓器横断的に診療可能な感染症専門医がいるのが理想ですが,なかなかそのような施設は多くはないでしょう.耐性菌を減らす戦略は感染対策からASTへのフェーズに来ており,抗菌薬適正使用への介入は急務の課題です.感染症専門医に限らず,薬剤師,看護師,検査技師が多方面から抗菌薬適正使用に介入することが今は求められています.ハイコンテクストカルチャーという日本がもつ特徴を活かして,臨床推論の知識をASTメンバーすべてが持ち,それを共通言語として「症例ごとの適切な抗菌薬」をディスカッションし提示できるようになることが重要です.そしてそのような形こそが他国にはない世界に誇れる日本スタイルだと感じます.
 さて,今回は介入のProcess 3に進みたいと思います.第6回でProcess 2として職員への体系的な感染症レクチャーを紹介しました.感染症について学ぶ機会が少ないなか,Process 2のような体系的な教育の場を定期的に開催することの効果は絶大です.特に医師でも研修医への教育を行うことで院内にもっとも非侵襲的に感染症を広めてくれます.しかし,最も大切なことはその病院のニーズにあった介入を行うことです.勉強会にせよ,抗菌薬の適正化にせよこちらから強制するような介入はやはり効果的とはいえません.そして何より,病院に大きな力をもたらすのはコンサルタントではなく,やはりすでに現場で頑張られている常勤の皆さんです.ではどうしたらよいでしょうか?

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[図1]初期に行う具体的な介入の全体像


感染症コンサルタントの講義よりも
院内職員による教育・発表の威力

 自分が実践しているコンサルタントの介入の重要な要素に医師・研修医を中心とした職員への感染症教育があることを以前紹介しました.体系的な臨床感染症教育の効果を実感する日々ですが,それとはまた違った効果を発揮するものに院内スタッフによる教育・発表があり,コンサルタント業務の一つとしてそのサポートをしています.医師以外の院内職員,特に看護師を対象にした場合に院内スタッフが講師となる勉強会はきわめて効果的です.医師の世界では名が知られている人が話しても,現場の実働部隊となっている看護師たちにはそんなことは知ったこっちゃないのです.現場の院内職員に明日から現場で役に立つことを伝え,そして何よりそれが伝わるのは,普段から近くにいる人であって黒船の発言ではありません.多くの院内職員に真に伝わらないのは自分の魅力のなさ,教育者としての未熟さでは? と思い一瞬悲しくなることもあります.というのも,医師以外の職種を対象とした勉強会では自分のレクチャーの時よりも院内スタッフの時のほうが集客があったり,会場もいままでにないうちとけた雰囲気でいたるところで笑いが出たりします.「この方(院内スタッフ)はとてもみんなから慕われているんだな」というのを感じます.
 ということで,このような院内スタッフが講義や発表する効果はとても大きく,そのサポートをすることもコンサルタントとしての重要な仕事と位置づけています.発表するテーマ,具体的な内容のチェック,プレゼンテーションスキル,会場から出る質問のサポートなどを行っています.自分が行っている体系的な臨床感染症のレクチャーをたくさん見せることも効果的で,多くの院内スタッフがそのスキルを盗み取ってくれています.つまり,自分のレクチャーを魅せることも院内スタッフの教育の場になっていると感じます.では,具体的にどのような実践例があるか? ですが,コンサルト病院の一つである留萌市立病院での試みをご紹介します.


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