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研修医のための微生物レクチャーシリーズ グラム染色所見と培養結果からどう考える?(22)

[第22回]グラム陽性桿菌編⑦


黒田浩一 くろだ ひろかず
神戸市立医療センター中央市民病院感染症科

(初出:J-IDEO Vol.7 No.4 2023年7月 刊行)

 前回の連載では,時々血液培養で検出される偏性嫌気性菌であるClostridium属について説明しました.今回と次回の連載では,有名かつ特徴的な形態をした(しかし,めったに出会うことのない)グラム陽性桿菌であるNocardia属について解説します.今回はNocardia属の微生物学的特徴とノカルジア症(Nocardiosis)の臨床像と診断について,次回はノカルジア症の治療と予後について説明していきます.

1.導入

 Nocardia属は,細いフィラメント状の分岐するグラム陽性桿菌で,主に肺・脳・皮膚に病変を形成する感染症(ノカルジア症,Nocardiosis)の原因となります.ノカルジア症は,主に細胞性免疫不全者に発症する日和見感染症の1つであり【1】,報告によって多少の違いはありますが,約3分の1は免疫正常者に起こることが知られています【2】.好気性かつ細胞が菌糸を形成して細長く増殖する形態的特徴を示すため,好気性放線菌と分類されることもあります(なお,嫌気性放線菌の代表例はActinomyces属です).
 ノカルジア症の大きな特徴として,1)すべての臓器に播種しうる(主に,肺・脳・皮膚),2)適切な治療を行っても再発・進行することがある,の2点があげられます.

2.Nocardia属の微生物学的特徴

(1)感染経路

 Nocardia属は,世界中の温帯・熱帯に分布しており,土壌・水(海水・淡水)・粉塵・腐敗した植物などに存在しています【1,3,4】.
 主な感染経路は汚染された粉塵の吸入であり,最も多い病変が肺であることと一致しています【3,5】.その他,皮膚への直接接種(外傷などによって傷害された皮膚に汚染された土壌や水が曝露する)が,皮膚ノカルジア症の原因となります.
 基本的にヒト-ヒト感染はないと考えられていますが,環境からの感染またはヒト-ヒト感染が原因と考えられる院内アウトブレイク事例の報告はあるため【6,7】,まったくないというわけではないようです.

【重要】 Nocardia属は自然界に広く分布しており,主な感染経路は,環境に存在する菌を吸入することである.

(2)グラム染色像[図1]

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