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基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(10)

[第10回]ESBLの治療その2

西村 翔 にしむら しょう
神戸大学医学部附属病院感染症内科

(初出:J-IDEO Vol.2 No.5 2018年9月 刊行)

 今回は,前回に引き続きESBLの治療における,各carbapenem-sparing agentのポジションについて解説します.

┃Piperacillin-tazobactam

 Carbapenem-sparing agentとして,現在までに最も検討されてきた薬剤がβ-lactam/β-lactamase inhibitor(BLBLI),特にpiperacillin-tazobactam(PTZ)です.ただし,carbapenemとPTZを比較した観察研究の結果は研究ごとに結果が異なっており,いまだPTZのポジションは定まっていません.以下では,なぜ研究ごとに相反する結果が生じるのか,考えられる要因を列挙します.

①感染源の問題

 これは,前回紹介したinoculum effectの話と共通する部分もあるのですが,比較的菌量が少ないと考えられている尿路および胆道感染症由来の菌血症患者で検討すると,PTZ群とcarbapenem群で死亡率が変わらなかったとする研究【1,2】がある一方で,菌血症が肺炎などその他の感染巣由来【3~6】であるか,感染源不明の症例【4】だとPTZ群で,あるいは選択される抗菌薬にかかわらず,死亡率が上昇することを示した研究【7】もあります.

②投与量の問題

 PTZ群がcarbapenem群と比較して予後が悪化することを示した研究のいくつかは,PTZの投与量が十分ではないことが指摘されています.2015年に発表され,比較的インパクトの大きかった,ESBL菌血症のempiric therapyにおいてPTZ群とcarbapenem群を比較した研究【8】では,PTZ群で14日時点での死亡率のハザード比が1.92となることが示されていますが,このうち61%の患者ではPTZが3.375 g 6時間ごとで投与されており,4.5 g 6時間ごとの最大投与量で投与されていたのは39%に過ぎませんでした.既出の非尿路由来のESBL菌血症ではPTZ群の予後が悪化することを示した研究【5】でもPTZは4.5 g 6時間ごとが標準投与量とは明記されておらず,“PTZ群の有効性を示した過去の研究では,4.5 g 6時間ごとと通常のプラクティスより高用量で投与したことが寄与している可能性がある”との記載があることから,この研究内での投与量はこれより少ないことが示唆されます.この論文に記載されている通り,PTZ群とcarbapenem群での治療予後に差がないことを示した研究では,ほとんどの患者がPTZを4.5 g 6時間ごと(あるいは8時間ごと)【1,2,9】で投与されています.

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