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微生物検査危機一髪(43)

[第43回]AST に必要な微生物検査技師の知識

その3:実践 血液培養の検査結果とその解釈〜コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が出ました〜

山本 剛 やまもと ごう
大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)
大阪大学医学部附属病院感染制御部


(初出:J-IDEO Vol.8 No.4 2024年7月 刊行)


 前回は閉塞性胆管炎患者の血液培養からCitrobacter koseriが出てきた症例を題材にして,de-escalationを含めた抗菌薬の処方提案について解説しました.今回はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)が出た症例を題材にして考えていきましょう.

症例

70歳代の男性.
主訴  発熱.
既往歴  特記事項なし.
現病歴  2ヵ月前から食事のときに喉がつっかえるような感覚になり,同時に体重減少もあったことから,気になって近医を受診しました.上部消化管内視鏡で食道上部に腫瘤が見つかり,病理組織で食道がん(T2M0N0)と診断され加療目的で入院となりました.入院後は抗がん化学療法を1クール施行し,8日目には白血球数1,500/μL(好中球21%)まで減少となっていました.同日よりG-CSFが開始となり発熱はありませんでしたが,咽頭痛を自覚していたため,インフルエンザとSARS-CoV-2の抗原検査を実施しましたが,ともに陰性でした.入院11日目に発熱,悪寒戦慄があり血液培養採取〔末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)および末梢血をそれぞれ1セットずつ〕,尿培養を採取し,発熱性好中球減少症としてセフェピム(CFPM)を開始となりました.PICC刺入部の発赤や腫脹はありませんが,突然の発熱と抗がん化学療法施行中であること,PICCが挿入されていることから,カテーテル関連血流感染(CRBSI)も疑っています.尿グラム染色では膿尿および細菌の確認はありませんでした.
バイタルサイン  体温39.6℃,心拍数87回/min,血圧124/71 mmHg,SpO2 96%.
臨床検査値  WBC 1,400/μL(Neu 10%),RBC 281万/μL,Hb 9.3 g/dL,Ht 26.4%,MCV 94.0 fL,MCHC 35.2%,Plt 11.1万/μL,TP 5.8 g/dL,Alb 3.5 g/dL,UA 3.2 mg/dL,AST 20 IU/L,ALT 31 IU/L,γ-GT 34 IU/L,LD 146 IU/L,ALP 49 IU/L,T-bil 0.9 mg/dL,BUN 17 mg/dL,Cre 0.79 mg/dL,CRP 0.65 mg/dL,Na 134 mEq/L,K 4.6 mEq/L,Cl 102 mEq/L.

 血液培養は3日目に陽性となり,1セット好気ボトル1本からGPC clusterが検出.血液培養の検査は,mecA遺伝子検査では,mecA陽性,spa検出なし,SCC検出なし,MALDI-TOF MSにてStaphylococcus epidermidis(Score Value 2.30)が検出されました[図1].尿培養は細菌を認めませんでした.

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