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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.23

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.23
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長


 今回は2021年5月号の「何読み」です!

 今回の内科学会雑誌の特集は「AKI(急性腎障害)Update」です。
 正直Update言われても......みたいな内容が多かったです。

 あっ!

 いま一瞬雰囲気悪くなりそうになりました。やめましょう!


 というわけで今回はもう早速「今月の症例、どこに線を引きましたか?(どこ引き)」に参りましょう!!!!

 ちなみにどこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、「何読み」の中のメインコーナーになっております。

 「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、

青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ

で塗り分けるのでした。

 今月号は3例ありました。
 では、1例ずつ見て参りますね。



■p981 肺腎症候群の臨床像を呈したダビガトランによる抗凝固薬関連腎症の1例


 いつものように最初にタイトルをみますが、「ダビガトランによる抗凝固薬関連腎症」に目がいってしまいますね。わかります。正直私も知りませんでしたこの病態名。
 ですがこれ、「肺腎症候群」を知っていると容易に類推できます。
 昔、Z会の「速読英単語」というのがありましたね。
 あれは、単語の意味がわからなくても文章の中で前後関係で単語の意味を類推して覚えようという主旨だったはずです。
 それとは違いますが(違うんかい)、肺腎症候群というのは「急速進行性糸球体腎炎に肺胞出血を伴う病態の総称」(本文より引用)のことです。
 これを知っていると、「肺胞出血」「ダビガトラン」あたりで、ああ出血ってことか! ということが雑にわかります。
 でも腎症......
 はい、このへんは本文を読んでみましょうか。


 62歳男性、48歳でアルコール性の肝硬変。
 来院1ヶ月前から発熱と関節痛。これは2、3日で改善。
 その後、今回の来院2週前から肉眼的血尿。
 1週前から38℃を超える発熱の反復と労作時の息切れが出現。
 来院前日にかかりつけの診療所に行って採血をすると、腎機能の著明な悪化と胸部X線撮影で間質影を認め、紹介になった。

という経緯です。胸部CTでは肺胞出血に合致するパターンで、まずは肝硬変患者に生じた肺腎症候群の臨床像であることがわかります。

 あれ? でもこのケースは円柱は認めず、顕著な血尿だけでした。急速進行性糸球体腎炎とは言えないですね。
 この確認は腎病態の鑑別に重要な点です。基本ですけれど。
 病像だけなら、SLEやGoodpasture、ANCA血管炎なども鑑別に入ります。ですが、この例はおそらく違いますね(もちろん他の諸検査もしてあります)。

 ダビガトラン内服中の患者が、血尿・肺胞出血。
 全体を、ダビガトランの薬剤性ではないかとする仮説が立ちます。

 入院15日目に腎生検が行われました。
 赤血球による尿細管閉塞とIgAの沈着を認め、一方で糸球体腎炎の所見はありませんでした。
 これにより、これまでの精査と併せてダビガトランによる抗凝固薬関連腎症(anticoagulant-related nephropathy:ARN)と診断されました。
 ただ一般的には、腎生検を前提としない概念もARNと呼ぶそうで、つまり抗凝固薬を内服中に生じた急性腎障害をARNと呼べばいいらしいです。
 ARNのうちダビガトランによるものでは、これまでの報告はほぼ全てIgA腎症とのことです。
 これには驚きましたが、今回の症例もそうでしたね。

 実は「腎症」って言い方は正確なんだなと思いました。
 「肺腎症候群」って言われるとつい糸球体腎を想起してしまう。
 ということで、個人的にこの論文の至適なタイトルは、「肺腎症候群的な臨床像を呈した〜」ですね。

1例目は以上です!
では2例目に参りたいと思います!!!



■p989 不明熱の鑑別に低補体血症が有用であったIgG4関連硬化性胆管炎の1例


 さて「どこ引き」2例目です。
 今回もまた、まずタイトルを見てみます。
 あれっ。
 「IgG4関連疾患が低補体血症になる」「低補体血症の鑑別にIgG4関連疾患がある」って、やや常識的ではありませんでしたっけ?
 いやっ、どうだったかな......
 はい、こういう風に迷ったときは「Kunimatsu’s Lists」、通称“國松リスト”ですよ。はい、検索してください。

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 じゃーん。
 「書籍版」でいうとp301でした。
 えっ。書籍版ってことは他もあるの?
 あるんです。「アプリ版」です。
(※ 詳細は、App Storeで「國松リストアプリ」と検索いただくか、こちらにアクセスください)


 すいません本線に戻りますね。ご覧いただいたリストのように低補体血症の鑑別にはいろいろありますが、IgG4関連疾患も入っております。
 これ、使えますのでぜひご活用ください。そうです、今回の筆者たちがそう結論づけたように。

 では本文を見て参りましょう。


 77歳女性、受診3週前から微熱。
 ああ、不明熱的な病歴だったんですね。
 CRP 0.63 mg/dL。
 CT含めた全身精査でも原因はわからず。その際に判明したのが、IgG 2,893 mg/dL、IgG4 412 mg/dL、sIL-2R 2,009 U/mL、そして低補体血症でした。

 そこで筆者らは、IgG4関連疾患を疑いながらもその病変が見当たらないということで、FDG-PET/CTに踏み切ります。
 これは、保険適応はありませんが、良い検査適応であると個人的には思います。
 というのも、この後のコスパが良いように思います。
 不明熱精査をしていたわけですからそれも兼ねられますね。

 PETの結果は、肝門部から門脈に沿ってFDG集積を認め、胆管炎が疑われました。
 この部位の生検(具体的なやり方は記載なし)を行ったところ、IgG4関連疾患に合致し、IgG4関連硬化性胆管炎に至りました。

 考察が興味深いです(引用文献は、本文を参照ください)。
 IgG4関連疾患全体では、IgG4関連硬化性胆管炎の頻度は13%だそうですが、そのほとんど(98%)で自己免疫性膵炎を合併していたそうです。
 逆に自己免疫性膵炎を合併してなかった残りのわずかな例では、膵臓以外の他臓器に病変が認められており、すなわち、本例のように硬化性胆管炎が単独病変になるというのは極めて稀(というか前例がほぼない)ということでした。

 ますますPETが有用でしたね〜と思う一方、ここまでレアだと診断が心配になりますね。
 たとえば癌です。
 組織学的な検討でIgG4関連疾患に合致したとしても、遅発性に判明する形で癌が共存しているかもしれません。
 私なら、癌が発生しないか、今後もclose observationしますね。

 その根拠?
 そんなものありません。臨床医の勘です(←いっぺん言ってみたかった)。

 考察に少し触れてありましたが、この筆者らも、IgG4関連疾患では「非炎症性な状態であるのにも関わらず、sIL-2Rが上昇する」ことに気づいておられるようですね。
 これは、IgG4関連疾患が全然CRPが高くならない病態なのに、FDG-PETでは病変に高いFDG集積をみるという「現象」と合致すると思っています。

 以上です!
 では最後、3例目に参りたいと思います!!!



■p996 Meckel憩室への異物穿通による肝膿瘍の1例


 さて「どこ引き」、3例目のケースです。
 これは......私多分わかりました(古畑任三郎)。
 まず肝膿瘍って、本邦では診断しやすいです。
 質の高い画像検査を、すぐやるからです。検査までのアクセスが抜群に良い。
 肝膿瘍があることはすぐわかってしまう。きっと本例でもそうでしょう。
 肝膿瘍に形成されるルートは、3つあると個人的に理解しています。
 1つは、アメーバ肝膿瘍です。
 男性間性交渉をしていることは発症リスクになります。
 2つ目は、悪性がらみです。
 たとえば肝内胆管癌とかがあって、それとcomplicatedして膿瘍形成に至るやつ。
 最後3つ目が、血流......主に門脈から血行性に細菌が肝内に入ってトラップされて病巣を作るパターンです。
 私、今回はそれかなと思いました。
 タイトルにMeckel憩室とありますから、それが関連するということは、そこに憩室炎的に腹部に病巣を作って静脈系に乗り、門脈から肝臓内に入ったというやつです。
 臨床はなんでも「解剖と生理」ですね。
 それでは今日はこの辺で!!


 ......って、まだ本文に触れてませんでした。
 では本文を見てみましょう!


 すでに最初のCTで、肝膿瘍の他に、小腸内に20 mmの線状の高濃度域とその周囲の脂肪織不整がある、とあります。
 しかも血培陽性(Streptococcus oralis)。
 肝膿瘍に対しては経皮穿刺によってドレナージされ培養はStreptococcus intermediusでした。

 抗菌治療を行うこと入院15日目、腹腔鏡下で手術が行われました。
 小腸を体外に牽引し用手的に検索したところ、回盲部から50 cmの回腸に硬結を認め、この部位を切除したところ、これはMeckel憩室に穿通した「魚骨」だったとのことでした。

 こういう異物による消化管の穿通は、日本では魚骨が多いらしいです。
 考察にあるのでそのまま書きますが、この患者さん(54歳男性)は、早食いで、かつ日頃から魚は骨まで食べて飲み込む習慣があったとのことです。すごい。

 本文に引用がある本邦の2つの既報を合算すると、穿通部位は、食道が1位で、次いで回腸、横行結腸、S状結腸が多いそうです。
 この理由として、

①小腸は他の消化管と比べて長いので、確率的に高い
②回腸は後腹膜への固定がなく、蠕動が大きい
③横行結腸やS状結腸も後腹膜へ固定されていない

という点が考察されているそうです。
 やっぱり「解剖と生理」って大事ですね。

 他にもこの論文には考察で大変役立つ内容がレビューされていたりと、非常に有益でした。

 日本独自の疫学の考察や、それに対応して和文の文献を引用。
 和文の症例報告を読むだけでこんなに勉強になるなんて。

 解剖や生理の教科書片手に、和文のケースレポートを読みたくるだけで臨床の力が身に付く気がします。
 もちろん皆さんの勤務先には「実際のケース」というとてつもなく有益な素材がありますよね。

 つまり日々勉強ですね!!


 今月は......以上です!
 ありがとうございました。


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