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脳トレ診断推論 ハイブリッドリーズニングを使いこなせ!(3)

脳トレ診断推論 ハイブリッドリーズニングを使いこなせ!(3)
[第3回]お腹の右側の痛みを主訴に救急搬送された高齢男性〈後編〉
上原孝紀 Takanori Uehara
千葉大学 診断推論学/総合診療科

千葉大学総合診療科のエースが,同科で行われている診断推論トレーニング法を伝授します!それは,暗黙知としてスルーされているような問題を言語化していく「脳トレ」.さあ,皆さん一緒に診断力を向上させましょう!


 本連載の主たる目的は,限られた情報から次の情報を推測するforward reasoningと,学ぶべき原則を押さえたbackward reasoningを洗練することです.普段の臨床現場での自身の診察風景をイメージして,皆さんであればこの時点で何を考えているか,次に何をきくかを考えながら読み進めてみてください.そして,第2回〈前編〉で投げかけた3つの追加情報の答え合わせもしていきましょう.それでは脳トレ診断推論第3回,始めます!!

Ⅰ はじめに

 まず,第2回〈前編〉で示したケース2を再掲します.

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66歳,男性.主訴:お腹の右側の痛み.
現病歴:2時間前から右側腹部痛を自覚.その後2回嘔吐したため地域基幹病院へ救急車で来院.
BT 36.3℃,BP 160/76 mmHg,PR 97回/分,RR 20回/分,SpO2 99%(room air).
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 第2回〈前編〉で取り上げた重要ポイントは,以下の3つです.
・診断に重要な情報はonset(発症様式)とtime course(経過).
・急性腹症はonset(発症様式)で鑑別する.
・聞き慣れない愁訴は疾患絞り込み効果が高い.

 以上の3つの重要ポイントに加えて,closed questionで明らかにしたのが,発症から20分でピークに達した痛みと,ピークに達した後,横ばいで推移した痛みです.これらの情報から破れる,裂ける,詰まる,捻れるといった緊急を要する疾患の可能性が上がり,感染症の可能性が下がったことまでを言語化しました.
 そして〈前編〉の最後に,私から皆さんに投げかけた質問が,「ケース2の情報のなかから,さらに3つ抽出できる診断に有用な情報は何か?」でした.
 第2回〈前編〉を振り返ってみると,ケース2の情報のなかから取り上げたのは,「2時間前から」と「腹部痛」のたった2つだけだったようです.いかに前向き推論とはいえ,この2つの情報だけで〈前編〉が終わっていたことに,われながら驚きでした(笑).それでは,「2時間前から」と「腹部痛」以外の残った情報から,さらに3つの有用な情報を抽出してみてください!

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