國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.04
國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.04
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 医長
今回は2019年の10月号です。
今月の「何読み」です。
今号の特集は......なんでしたっけ。
パラパラと見てみると「診療ガイドライン at a glance」というコーナーが目に入りました。
副腎性サブクリニカルクッシング症候群 新診断基準
というタイトル。読んでみました。
1996年以来の改訂であるということ、それが日本からの提唱だったということ、などにまずしみじみしました。
いろいろ書いてあるのですが、要するに、
副腎腫瘍があって
クッシング症候群がなくて
早朝コルチゾールが正常で
......という人に1 mgデキサメタゾン抑制試験を行って、
それが5 μg/dl以上という場合、
「副腎性サブクリニカルクッシング症候群」と診断し、
さらに、プレ・クッシング症候群(※注 國松の造語です)があれば手術を検討する。
というものだそうです。
ちなみにプレ・クッシング症候群の内訳は、高血圧・全身性肥満・耐糖能異常・骨密度低下・脂質異常症などです。
この副腎性サブクリニカルクッシング症候群 新診断基準というものの趣意はおそらく、早期発見なのだろうと思います。例えば8 mgデキサメタゾン抑制試験などは出てきません。つまり、より少ない抑制負荷でのコルチゾール産生能の自律性を確かめればよいわけです。
私はこの「副腎性サブクリニカルクッシング症候群」を早期発見するというような姿勢を『日本のお家芸』と呼んで、リスペクトしております。
クッシング症候群は、なんというか、非常に良くない病気です。
「病歴やフィジカルで!」診断していたら遅いですよね。そんなのでわかるクッシングはもう遅いです。元気なうちに診断したい疾患です。
いろいろなところに狭窄症状や阻血症状、大動脈の構造変化などをきたしてから、「病歴やフィジカルで!」わかる高安病を診断しても、残念ながら遅いですよね? そういうものが出る前に診断したいですよね。それと一緒です。
「病歴やフィジカル!」が意味ないとは言っていませんよ!
「病歴やフィジカル!」を確認するのは、当然なのです。
かぜウイルスに抗菌薬が効かないことも当然、
RAST検査陰性で口腔アレルギー症候群が否定できないことも当然、
いろいろな「当然」を、平然と処するようになれることが、臨床医の成長だと思います!(キラ
......あれ、少し終わりそうになってしまいました。
今月は「どこ引き」があるのです。ここで終われません。
ちなみにどこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略です。
勝手にすみません。
今号は3例ありました。
今回は、どれも「しみじみ~」する症例でした。
さっそく見ていきましょう。
あっ。気分的に、後ろのページのケースからみていきますね。
■p2168, ACE阻害薬による血管性浮腫が原因と考えられ気管切開を要した1例
まず1例目です。
さて、タイトルにもありますが、ACE阻害薬では血管性浮腫をきたすことがあります。知ってました......よね?
75歳の男性が呼吸困難で救急搬送。血圧224/128 mmHg。おそらく高血圧性心不全。搬入後に心停止となり挿管。
第6病日にエナラプリル 5 mg、アムロジピン 2.5 mg開始。抜管。呼吸困難はあり。
第8病日に再挿管。声門周囲の著明な浮腫。これに対するステロイド治療開始。
第11病日に抜管。
第15病日に再度気道狭窄で再挿管。やはり喉頭蓋・声帯・喉頭披裂部に著明な浮腫。
第19病日、治らないので気管切開。
第64病日、エナラプリル、アムロジピンを中止。テルミサルタン 40 mgへ。
中止2日後、喉頭浮腫改善。カニューレ抜去でき、その後再発なし。
えっ。
......えっと、あの、あのぉ......
良かったですね!!!!(治って)
「2ヶ月」もの間、ご家族様におかれましては不安な日々だったことでしょう。
ほんと、良かったです(しみじみ)。
この患者さん、普段からテルミサルタン 80 mg内服中だったんですけれどね。
まあいいですそれは。
1例目のコメントは、......どうしよう。
ACE阻害薬では血管性浮腫をきたすことがあります。
これで締めようかしら。
あっ。ACE阻害薬で血管性浮腫って、アレルギー学の教科書的知識だと思うのです。日本の卒前・卒後教育における、臨床アレルギー学の非浸透性を感じさせられる、そんなしみじみ症例でした。
以上です!
■p2161, 気管支鏡で診断したコクシジオイデス症の1例
さて「どこ引き」の2例目です。
これはとても良い論文です。
あれ、そういえば「どこ引き」というのは、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、
青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ
で塗り分けるんでしたね!
言うの忘れてました!
この2例目で、私が青のマーカーを引いたところは、
・10月中旬に米国(テキサス州、カリフォルニア州)の渡航歴(1週間)
・10月下旬に発熱・関節痛 → 肺炎の診断
・11月上旬に両下腿に臨床的な結節性紅斑。胸部CTで空洞あり。
この経緯の部分です。
このあと呈示病院の呼吸器内科へ紹介がされるようですが、本文にもありますが、まずは結核の精査です。
そりゃそうですよね。空洞影がありますし、結核症でも結節性紅斑は出ます。
でも肺結核にしては経過が早いですよね。
気管支鏡が実施されました。気管支肺胞洗浄液で、好酸球が高かったです。渡航歴からコクシを疑い、検体を千葉大真菌センターに送って診断。治療はフルコナゾール 400 mg/日を6ヶ月とのこと。
好酸球やIgEは約30%くらいの症例で上がっているそうで、好酸球性肺炎と間違われることもあるそうです。
症例自体は、割と典型的な肺コクシジオイデス症でしたが、考察の論の進め方が良かったです。
1つは、この病原体の感染性の強さから、検体の取り扱いに注意しようということでした。人-人での感染力というより、検査室での感染の危険です。
培養検査などで長期間検体を置いていると、分節型分生子を形成して飛散しやすくなり、それで室内が汚染。これが人への感染を及ぼすようです。
もう1つが、気管支鏡での診断のススメです。この背景には、慢性コクシは病変がやや小さく、元来外科切除例での診断がほとんどという本邦の事情があったようです。手術をしてでも取るのは、結核やがんとの鑑別のためでしょう。
1つ目ともここで関連すると思うのですが、コクシジオイデスを認識する前であれば、手術と気管支鏡で周囲への「バイオハザード」の影響の差はかなり大きいはずです。だから気管支鏡のススメなのです。
最近は小さながんでも気管支鏡で診断できる!
呼吸器内科医の矜持を感じました。
最後に、旅行者の増加に伴う国内での診断数の増加の点です。
米国テキサス州、カリフォルニア州を中心として米国南西部、メキシコ北部といった「半乾燥地帯」が流行地域です。この地域への渡航歴で本症を疑いましょうということでした。
結節性紅斑の鑑別でいつかみつけたいな~ しみじみ。
■p2154, 巨赤芽球性貧血によるpseudo-thrombotic thrombocytopenic purpura(pseudo-TTP)の1例
さて今月の「何読み」の、最後の「どこ引き」症例です(ちょっと説明的)。
このケースは、かなりしみじみ症例です!
極端な偏食の65歳男性
症状は倦怠感くらい
白血球 2940/μl
Hb 4.0 g/dl
MCV 114fl
血小板 3.1万
網状赤血球 2.47万/μl
もちろん臨床では実際には色々な情報を総合して考えるわけですが、「これだけ」の情報で考えるとしたら、私なら「ビタミンB12欠乏」と真っ先にそれだけ考えると思います。そして、他に葉酸、フェリチンを提出し、國松カクテル:『ビタミン群(あるいはメチルコバラミン)+葉酸製剤+鉄剤』を処方して1週後再診、としますね。
しかし!
この症例では、緊急入院!
破砕赤血球が認められ、LDHがすごく高かった(3789 IU/l)からだそうで。
TTP......
まあそうですよね。
でもそれを気にするのなら、AIHA(自己免疫性溶血性貧血)が気になります。直接クームスを提出することになると思いますが、網状赤血球が低いですね。
破砕赤血球がみえたとしても、臨床的にはTTPらしくないから、今や保険収載されたADAMTS13活性を提出し、やっぱり『國松カクテル』で1週後再診ですね。
もしADAMTS13活性が低下していればADAMTS13のインヒビターが保険で検査できるので提出しつつ入院で血漿交換だと思います。
この症例では、ADAMTS13活性は47.2%と、これは著減ではありません。
大球性貧血かつ溶血性貧血様のデータセットをとり網状赤血球が低ければ、栄養状態や腸管切除歴などを確認はしますが、ビタミン欠乏(特にB12や葉酸)と考える。これが私の考え方です。ビタミン欠乏では血小板減少などはかなりコモンです。内服でまずは十分です。ぐんぐん血球は回復していきますよ。
TTPは緊急疾患。
そりゃそうです。私も知っています。
Hb 4.0。
急性出血の貧血なら、Hb 15の人がHb 12になっただけでショックになることもあるでしょうね。でも私なら、この論文の患者のHb 4より、そのHb 12の人のほうが断然緊急性あると思いますね。Hbが3倍もあるのにね。
この人は、急に発症したんですかねえ。そう思えないです。
慢性TTPというものがある? よくわかりません。
ずっとこういう状態だったと思われる(*)人に、そんな、日を争っての血漿交換が必要だったんでしょうか。
第4病日にはADAMTS13活性の結果がわかるような時代にあって、その「中2日」を待てないくらい悪い状態だったんでしょうか。
多分筆者らは、「pesudo-TTP」って言いたかっただけなんだと思います。言葉は知らなかったので、しみじみ勉強になりました。
この種の内容の議論は、一生分かり合えないと思っています。(*)のところの認識は、「時間」という軸が含まれているはずで、それを動的な形で脳に組み込んで認識するかは、脳機能の個別性だと思っています。
なんか今回は最後暗くなりましたね。
来月は、もっと明るく書きますね!
あっ!
そういえば今号の特集は「自覚症状からみたリウマチ性疾患」でした!
全く触れませんでしたね!
......それでは今日はこの辺で!
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