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基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(22)

[第22回]CREの治療⑤

西村 翔 にしむら しょう
神戸大学医学部附属病院感染症内科

(初出:J-IDEO Vol.4 No.5 2020年9月 刊行)

┃Imipenem-cilastatin-relebactam(IMI/REL)

 Relebactam(REL)はavibactam(AVI)と同じくdiazobicyclooctane(DBO)系のβ-ラクタマーゼ阻害薬です.AVIとの構造上の唯一の相違点は,二環式になっているDBOのコア構造のC2位のR1側鎖にpiperidine環が加えられている点です.このR1側鎖の構造上の違いによって,in vitroでは,KPC-2に作用してアシル中間体を形成した後の脱スルホン化による分解が起こりにくくなり(脱アシル化のみが起こり),KPC-2と安定した複合体を形成することができます【1】.さらにpiperidine環によって,生理学的なpHにおいて陽性荷電を呈することで,排出ポンプによる影響を受けにくくなると考えられています【2,3】.実際,in vitroでESBLやKPCに対するRELの活性(IC₅₀)をAVIと比較すると,(piperidine環で)C2側鎖が大きいために各β-ラクタマーゼのアミノ酸残基と衝突してAVIよりも10~100倍は酵素活性が低いにもかかわらず,KPCに対してIPM/RELの細胞膜透過性がCAZ/AVIより高い(ペリプラズムでの濃度が上昇しやすい)ことで相殺されて,いずれも同程度に有効であると結論づけている研究もあります【4】.ただし,これらのin vitroでの差が臨床的にどのようなインパクトをもたらすのかは現時点ではよくわかりません.
 RELの活性を耐性機序別に見ると,KPCやESBLを含むclass A β-ラクタマーゼ,さらにAmpCを阻害できますが,MBLに対する活性は有しません【2,5】.なお,AVIには菌株によってAmpC誘導能がありますが,RELには誘導能は認められません【6】.耐性機序別に見てRELのAVIとの最も大きな違いは,OXA-48-like型に対する阻害活性がAVIよりも弱い(変動がある)という点です【5,7,8】.RELの活性を菌種別で見てみると,MorganellaやProteus,ProvidenciaといったMorganellaceaeに属する菌種では感受性率は低くなります【9】.これは,2019年3月号で説明したように,Morganellaceaeでは外膜透過性やPBPの変異によってIPMに内因性耐性を示すことが多く,これらの耐性機序をRELでは克服できないためです.また,Serratia spp. に対しても,他のEnterobacteralesと比較すると感受性率がやや下がります【8,9】.この理由はよくわかっていないのですが,元々,IPM低感受性あるいは耐性のSerratia spp. の多くはカルバペネマーゼに起因しないことが知られており【10】,さらにKPC産生株や,SMEと呼ばれるSerratia marcescensの染色性のclass Aカルバペネマーゼが発現した場合でも(class Aのカルバペネマーゼであるにもかかわらず)RELでは感受性の回復が期待できないようです【11,12】.したがって,IPMおよびIPM/REL耐性S. marcescensではβ-ラクタマーゼ以外の別の耐性機序の関与が推定されています.P. aeruginosaに対しては,全株の90%以上で感受性は担保されており,IPM耐性株の約80%でIPM/RELの感受性は回復します【13,14】.RELで感受性が回復するかどうかは耐性機序に依存しており,P. aeruginosaで最も頻度の高いIPM耐性機序である外膜蛋白OprDの欠損+AmpC産生による場合には,主にAmpCを阻害することで感受性が回復しますが,MBL産生や一部のGES型(ESBL,カルバペネマーゼ含む)やOXA型カルバペネマーゼ(例;OXA-40/24-like型)産生株では,RELによる感受性の回復は期待できません.ただし,IPM/RELでMICが感受性域に戻らないIPM耐性P. aeruginosa株のうちMBL産生株は半数以下(42%)に留まっており,特に低度耐性の場合にはMBLよりは,AmpCの産生量が過剰なためにRELの濃度が4 mg/Lでは十分な阻害がかからずに感受性が回復しきらないことが多いようです【3】.また,前述のようにRELはRND型の多剤排出ポンプによる影響を受けにくいため,(IPMの主たる耐性機序ではありませんが)排出ポンプ過剰産生が関与したIPM耐性に対してもRELで感受性の回復が期待されます【3,5】.Acinetobacter baumanniiに対しては,この菌種で問題となるカルバペネマーゼであるOXA-23やOXA-51などのOXA型カルバペネマーゼに対してRELは活性を有さないため,IPM以上の感受性は期待できません【15,16】.さらにS. maltophiliaも内因性にMBL(L1)を産生するため自然耐性です.グラム陽性球菌に対する活性に関してはほとんどデータがありませんが,原則的に変異PBPによる耐性(MRSA,E. faecium)などに対してIPM以上の活性はありません.嫌気性菌に対してもIPM以上の活性は期待できません(IPM耐性化するB. fragilis groupの多くは,MBL産生によるためです【17】).
 CAZ/AVIと比較した場合のIPM/RELの存在意義はどこにあるでしょうか? 活性のスペクトラムだけを見ると,AVIと比較してOXA-48-like型に対する活性が乏しくなっていますが,一方でP. aeruginosaに対する活性は,排出ポンプやOprD欠損による影響を受けにくい分,CAZ/AVIよりも有利であり【18】,IPM/RELは,multidrug-resistant P. aeruginosa(MDRP)に対してTOL/TAZと同程度の感受性が期待されます【19,20】.また,D179Y変異などによってCAZ/AVI耐性となったKPC variant株に対してもIPM/RELは感受性が保たれます【21】.ただし,2020年7月号で解説したように,この検討でのKPC-3 variant株は(表現型がESBL様になるため)IPMの感受性も回復しており,そこにRELを加えることで臨床的にどのようなインパクトがあるのか(=治療に使用できるのか)は不明であり今後の検討を待つ必要があります.なお,IPM/RELでもOmpK 36の変異および発現低下【15,21,22】およびOmpK 35の欠損【22】によって,MICが上昇(注;非感受性域まで上昇するとは限りません)することが報告されています.
 投与量は,IPM/CS 500 mg/500 mg+REL 250 mgを30分以上かけて6時間ごとに投与することが推奨されており,腎機能に応じて減量が必要です.FDAの設定するブレイクポイント【23】では(注;EUCASTは2020年度のVer.10.0からブレイクポイントを設定しており【24】,CLSIも,現時点ではブレイクポイントを設けていませんが2021年度からブレイクポイントを設けるようです【25】),Enterobacteralesに対しては<1/4 mg/Lでsusceptible,2/4 mg/Lでintermediate,>4/4 mg/Lでresistant,P. aeruginosaに対しては<2/4 mg/Lでsusceptible,4/4 mg/Lでintermediate,>8/4 mg/Lでresistant,嫌気性菌に対しては≦4/4μg/mLでsusceptible,8/4μg/mLでintermediate,≧16/4μg/mLでresistantと判定します.注意すべきは,Enterobacteralesに対するブレイクポイントは,元々IPMのMICが高めであるMorganellaceaeを除いて設定されているという点です(CLSIではさらにSerratia spp. を含むYersiniaceaeも除かれています).副作用に関しては,第2,3相試験【26~28】でIPM/RELに特有の有害事象というのは報告されていません.なお,IPMでよく知られている副作用である痙攣は,第2相試験,第3相試験のいずれでも認められませんでした.

IPM/RELの臨床成績

 次いで臨床成績を見ていきます.各々cIAI【26】,cUTI/AP【27】を対象とした2種の第2相試験で,IPM/RELが臨床的,微生物学的にIPMに非劣性であったことに基づいて,2019年6月にこれらの感染症に対する適応をFDAが承認しました.なお,いずれの第2相試験でもRELの投与量を125 mg,250 mgの両方で検討していますが,治療成績や安全性は変わりませんでした.ただし,in vitroでは,高度耐性株に対してはREL 250 mgがより有用であると考えられた【26】ために,以降はRELの投与量は250 mgで固定されています.第3相試験も2種類あります.RESTORE-IMI 1は,IPM非感受性菌による感染症(感染巣はHAP/VAP,cIAI,cUTI/AP)を対象として,IPM/RELをcolistin(COL)+IPMと比較した多国間,多施設での二重盲検ランダム化比較試験です【28】.症例は感染巣で層別化されて,2:1でIPM/REL(腎機能正常であれば500/250 mg 6時間ごと)群とCOL(腎機能正常であればCBAで300 mg loading後,150 mg 12時間ごと)+IPM(腎機正常であれば500 mg 6時間ごと)群に割り付けられ,cIAIおよびcUTI/APでは最低5日,HAP/VAPでは最低7日(いずれの感染巣でも最長21日まで)の治療を受けます.一次アウトカムは,研究参加前1週間以内に感染巣から採取された検体から≧1種類のグラム陰性桿菌が検出され,それがIPM非感受性で,かつIPM/RELとCOL感受性であることが確定(注;感受性の確定のためには,各施設での感受性検査でスクリーニング陽性となった株を,central laboratoryに収集し,そこで感受性再検の上で確定)した症例(microbiologic modified intent-to-treat:mMITT)での治療反応率[HAP/VAPでは28日死亡率,cIAIでは28日時点での症状の改善,cUTIでは治療終了後早期(5~9日)での症状の改善および尿中起因菌の消失の複合アウトカム]です.研究には50例が登録され,うち47例がいずれかの群に割り付けられ,そのうちmMITT解析の対象となったのはIPM/REL群21例,IPM+COL群が10例の計31例です.mMITT対象症例での起因菌はP. aeruginosaが77%,K. pneumoniaeが16%,その他のEnterobacteralesが6%で,感染巣別に見るとHAP/VAP11例の全例,cIAIの3/4例,cUTI/APの10/16例はP aeruginosaが起因菌です.また菌血症合併例は2/31例のみでした.P. aeruginosaが起因菌の多くを占めるため,検出されたβ-ラクタマーゼも84%はAmpCであり,CPEに関してはKPC産生菌5例,OXA-48産生菌1例に過ぎません.結果を見てみます.一次エンドポイントを満たしたのはIPM/REL vs COL+IPM群で71.4% vs 70.0%であり,(感染巣別に階層化して調整済の)群間差は-7.3%(90%CI:-27.5-21.4)と両群で差は認めませんでした(注;cIAIでは両群2例ずつの計4例で一次エンドポイントを満たした症例なし).研究の主体を占めるP. aeruginosaによる症例のみで見ると,81.3% vs 62.5%(群間差3.1%,90%CI:-19.8-38.2)でした.二次エンドポイントでは死亡率や,腎障害の頻度も検討されており,28日死亡率は9.5% vs 30.0%(群間差-17.3%,90%CI:-46.4-6.7),治療中の腎障害(Creの≧2倍の上昇,あるいはCCrの≧50%の減少)は10.3% vs 56.3%(群間差-45.9%,90%CI:-69.1--18.4)といずれもIPM/REL群で低くなっています(注;腎障害はmMITT症例ではなく,安全性解析対象のランダム割り付けを受けた47例で検討).また,治療中にIPM/RELに耐性化した症例は認めませんでした.
 この結果からは,IPM耐性菌,特にカルバペネマーゼ非産生のP. aeruginosaによるHAP/VAPおよびcUTI/APに対しては,IPM/RELはCOL+IPMと同等の治療効果を有し,かつ腎障害を減らすことが期待されますが,CRE/CPEに関しては症例数が少なく,さらにKPC産生菌症例でIPM/RELに割り付けられた4例(cUTI/AP 3例,cIAI 1例)のうち一次エンドポイントを満たした症例がcUTI/APの1例に過ぎなかった点は懸念が残ります.
 なお,現在,HAP/VAP症例において,IPM/RELをpiperacillin/tazobactamと比較した第3相の多国間,多施設二重盲検ランダム化比較試験(非劣性試験)【29】が行われており,まだ研究結果が論文化されているわけではありませんが,プレスリリースでは,一次エンドポイントである28日死亡率,および二次エンドポイントの一つである臨床的奏効率においてIPM/RELが非劣性であることが公表されています.

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