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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.24

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.24
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長


 今回は2021年6月号の「何読み」です!

 今号の内科学会雑誌の特集は「内科医に必要な呼吸器診療のコツ」です。
 この特集は、なんというか、本当に素晴らしいです。
 一言でいえば「バランス」。

 私が「バランス」といえば、どちらかというと悪く言うときですが(失礼)、この特集は呼吸器内科診療を広くバランスよく適切にカバーしており、また内容もプラクティカルで非常に有益です。
 私は一般内科の初診外来・再診外来をやっておりますが、外来診察室の傍に置いておきたいと思いました。
(COI:なし、忖度:なし)


 というわけで早速「今月の症例、どこに線を引きましたか?(どこ引き)」に参りましょう。

 ちなみにどこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、「何読み」の中のメインコーナーになっております。

 「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、

青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ

で塗り分けるのでした。

 今月号は3例ありました。
 では、1例ずつ見て参りますね。


■p1148 運動後急性腎障害(ALPE)の診断にMRI拡散強調画像が有用だった1例


 いつものように最初にタイトルをみましょう。
 このようなタイトルは、読み解き(解題)が比較的簡単です。
 運動後急性腎障害の診断が、典型的な病歴と腎障害の確認(他疾患の除外)、そして造影CTで行うことを知っていると、「このケースの場合はああ! MRIなんだな」とわかりここがポイントだと察せられます。
 仮に知らなくても、タイトルを国語力で普通に読解すれば、どこが一番大事かわかりますよね。

 運動後急性腎障害は、文字通り腎障害なので、普通の神経では造影CTは実施できません。なので、実臨床ではほぼ、病歴と他疾患の除外で行われていると思います。
 造影CTで何を示したいかといえば、腎臓の「阻血」所見なのです。
 腎血管の攣縮の結果、区域性の虚血が多発し、腎血流が落ちて腎障害となると、造影CT上では造影遅延相で楔形の造影剤遅延領域として示されます。

 ただもし、MRIであれなんであれ、非造影でこの画像所見を示せたら魅力的ですよね(腎障害なのですから)。本例はそこがポイントになるはずです。

 では本文を見て参ります。


 そうですね、読んでわかったのは、この論文の良さはポイントがどうこうとかいうそういうセコいことではなく、全体が良いですね。
 他と比べて特に秀逸なのは、「臨床経過」の記述です。
 所見に基づいて考えたこと・したこと、が記述されてあるだけなのですが、非常に良質です。
 こういうなんでもないところに、差は出るものだなあと思いました。

 実際に経過も面白く、すなわち、最初は急性腎盂腎炎の診断で入院しました。しかし感染症科が引き継いで診療したところ、感染症らしくないことがわかりました。
 良かったなあと思ったのは、これを導くまでのロジックです。

 鑑別を整理した上で、病歴を再聴取します。
 そこで初めて、発症12時間前に階段を全力で2往復したというエピソードが判明したとのことでした。何したんだ。

 MRI画像もなかなかでしたよ。
 あっ。全然関係ないんですが、久々に唐突ですが「どこ引き」の作業風景でも写真でお見せしましょうか。

画像1

 あれ?
 偶然にもMRIの画像も写り込んでしまっていますね。すいません。
 ピンクの蛍光ペンでマーカーしたところなどをお見せしたかっただけなのですが。

 ということで、非造影でもDWIを使えば腎臓の楔形・区域性の虚血を示すことができそうです!!
 メッセージも素晴らしく、必読の論文でした。


 1例目は以上です!
 では2例目に参りたいと思います!!!


■p1155 死後CTおよび剖検を施行したClostridium septicumによる電撃型非外傷性ガス壊疽の1例


 さて「どこ引き」2例目です。
 今回もまた、まずタイトルを見てみます。
 これでまずわかるのは、亡くなっていますね。
 「死後」「剖検」とあります。

 次に「ガス壊疽」と「Clostridium」に注目です。
 これは良いですよね?
 ガス壊疽は致死的な疾患です。
 また、「Clostridium」も大丈夫ですよね。
 Clostridiumといえば、perfringensですよね(押し付け)。
 外傷性ガス壊疽の代表的な病原体です。

 あれえ?

 もしそうなら稀とはいえ、症例報告にはしないぞぉ?
 成書的な内容です。

 せっかちさんですね。
 よく読みましょう。

 Clostridium “septicum” ですね。
 そして「非外傷性」のガス壊疽と書いてあります。
 これは経験ありませんでした。
 「電撃」ってことは数時間のうちに激烈に進展する病態だったのですね......
 Clostridium septicumですか。どうにも馴染みがありません。
 すごい毒素でも出すのでしょうか。
 興味が湧いてきましたね?

 では本文を読んでいきましょう。


 時間の経過がすごいです。
 70歳の男性が、

9:00 腹痛と鮮血便。
16:00 救急外来受診:CRP 0.09 mg/dL, 血液培養は採取, 造影CTで直腸壁肥厚と周囲の毛羽立ち
19:30 入院。
翌日の採血でCRP 26.1 mg/dL
11:00 S状結腸まで内視鏡で内腔観察。上部直腸に円形潰瘍。
19:55 巡視の看護師が病室で心肺停止しているのを発見。心配蘇生開始。
20:48 蘇生に反応せず死亡確認。
同意を得て『死後CT』を施行。

という経過でした。
 死後CTでは、直腸周囲の軟部組織に大量のガスを認め、さらには、周囲の動静脈、腹部大動脈、上腸間膜動脈、肝静脈、下大静脈、右房・右室に大量の『血管内ガス』を認めていました。
 つまり一見して死因は『ガス塞栓』。

 いや〜これは論文にするだけあってインパクトの強い症例です。
 剖検が行われ、肝臓の組織培養からClostridium septicumが分離されました。
 生前の内視鏡時の検体からもClostridium septicumが分離されました。
 剖検時は、肛門・会陰周囲に暗赤色の皮膚変色、出血を伴う水疱形成を認めており、これらの画像も掲載されています。

 ということで、Clostridium septicumによるガス壊疽、が剖検診断となりました。

 『 』の3つの単語が、私にとって珍しい言葉でした。

『死後CT』
『血管内ガス』
『ガス塞栓』

 『死後CT』、オートプシー・イメージング(Ai)って言葉は使わないんでしょうか。

 (しご しーてぃー)

 あっ。言いたいだけと思われちゃったかも。
 いやいや。海堂尊の不定愁訴外来世代としては、Ai(エー・アイ)って言葉で覚えていたので新鮮でした。

 『血管内ガス』『ガス塞栓』って言葉は、普段使いません。
 というか、ホラーですよね……
 一生聞きたくない言葉です。
 『ガス塞栓』なんて怖すぎて今日眠れないかもしれません。


 ……2例目は以上です!
 では最後、3例目に参りたいと思います!!!


■p1163 間質性肺炎に合併した先天性門脈体循環シャントによる肝肺症候群の1例


 さて「どこ引き」、3例目のケースです。
 さあタイトルをみましょうか。

 アァ! なんだか目が眩みますね。
 よくわからない語が並びます。
 ただ、ただ「肝肺症候群」、これがhintだと私は思いました。

 ......今かっこよくデキる風に言いましたが、これも単なる国語力です。
 タイトルの中で一番大事な単語はどうみても「肝肺症候群」でしょう。
 「間質性肺炎に合併した」「先天性門脈体循環シャントによる」などは、「肝肺症候群」という単語を修飾してるだけです。
 最悪分からなくても「肝肺症候群の1例」で終わりなわけです(まぁ語弊)。

 このケースでタイトル解題ができるかの分かれ目は、肝肺症候群を知っているかどうかです。
 日常診療では多くないです。
 外来とかで、「はい、あなたの息切れは肝肺症候群でした」とかいう風景は普通ないです。要するに稀なんだと思います。

 “platypnea-orthodeoxia syndrome”という言葉で有名かもしれません。
 普通心不全などでは呼吸困難が臥位で悪化・起坐位で改善しますが、platypnea-orthodeoxia syndromeでは「座位で悪化する」という現象です(身体所見と言っても良いでしょう)。
 こうした稀さと変わり種さで、肝肺症候群というのは一例報告・症例報告にされやすい題材なのです。

 肝肺症候群は、肺内血管拡張の存在などによって肺内シャントが生じ、低酸素血症になってしまう概念です。
 肝硬変などの進行した肝疾患に伴うと典型といえますが、肝硬変などのない肝疾患、つまり重症度に関係なく起こり、あるいは肝疾患でなくても起こる(門脈還流以上や門脈体循環シャント存在下でもだそうです)ということから、非肝硬変の肝肺症候群の方が症例報告にされやすいわけです!
 ここテストに出ます!!
 やっぱり「解剖と生理」って大事ですね〜。


 ......あ、ていうかタイトルにありました。
 「先天性門脈体循環シャントによる」って書いてあるじゃな〜い。
 そうです! こういうのです!!

 はぁはぁ......
 …...では本文を見てみましょう!

 ちなみにもやっとした方は、同じ内科学会雑誌の症例報告の、こちらをご一読ください。

「呼吸不全を来たし,肝肺症候群と診断した1例」
日内会誌.2016;105:1282-6.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/7/105_1282/_pdf


 本文を読んで驚くのは、臥位と座位の血ガスが比較してあって、実際に座位のほうがPaO2が低いんですよね(39.0 Torr)。

 CTで、肺底部に血管拡張があり、また門脈と左腎静脈を結ぶ拡張した血管構造がわかり、この部位でのシャントをうかがわせました。
 肺血流シンチグラフィーでは、腎臓や脳に集積があり(肺のシンチなのに)、右左シャントの存在が確定されました。

 あと、そりゃそうだと思いましたが、門脈体循環シャントの程度を反映するマーカーとして、血中総胆汁酸があるそうです。
 この患者さんでは58.8 μmol/L(基準:0~10)と上昇していました。

 個人的に非常に興味深かったのは、治療の一環でシャント血管閉塞術が行われましたが、酸素化の改善はゆっくりだったという点です。

 臨床家の関心事は、治療をしてからどのような経過で治っていくかです。
 これを他人の症例で見聞きできるのが、症例報告の良いところです。
 この症例では、10ヶ月たってからようやく、臥位と座位のPaO2が逆転し、症状も改善していきました。
 徐々にゆっくり治るんですね!

 疲れたので詳記しませんが、「シャント」がらみの症例というのは、「解剖と生理」の勉強にもってこいです。
 理屈っぽいのは否定されがちな昨今ですが、こうした理屈が診療に直結する気持ちの良い症例でした。

 あっ、そういえば臨床って何事も「解剖と生理」が大事でしたね。


 今月は......以上です!
 ありがとうございました。


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