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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.21

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.21
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長


 今回は2021年3月号の「何読み」です!

 今回の内科学会雑誌は、昨年行われた内科学会の講演のダイジェスト集です(ただしコロナでオンライン開催でしたね…...医書物販もつぶれました泣)。

 さまざまな興味深い見出し(トピックス)が目次に並びます。

 内容は、「講演記録」なので、基本は総花的ではあるのですが中にはきちんした総説になっているものもあり、読みたいものだけ拾い読みするのがおすすめです。

 私のお勧めは、p486-491の「総合内科診療に潜む内分泌代謝疾患」です。
 これは岡山大学総合内科の大塚先生らの記事です。
 詳しく説明することもできるのですが、次の2つの理由でちょっと控えます。

• 今号は「今月の症例」が4例もあるうえに、もしそのいつもより多い分たくさんの原稿を書いても原稿料が同じだろうということ
• 「総合内科診療に潜む内分泌代謝疾患」といえば、良質な後学に向く書籍(*)があること

「General Mindで攻める 総合内科で診る内分泌疾患」(2020年, 中外医学社)


 ......。
 では微妙な雰囲気の中、「今月の症例、どこに線を引きましたか?(どこ引き)」に参りましょう!!

 ちなみにどこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、「何読み」の中のメインコーナーになっております。

 「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、

:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ

で塗り分けるのでした。


 今月号はなんと、4例()ありますので、あまり長過ぎないようにまとめます。
 では、1例ずつ見て参りますね。


■p598 CK17万 U/Lと異常高値を呈したacute edematous dermatomyositisの1例


 ではいつものように最初にタイトルをみましょう。
 このタイトルは個人的に興味深いです。
 なぜなら、acute edematous dermatomyositisと診断できるようなケースに遭遇したことが、私にはこれまでないからです。
 病像なんかは、本文を楽しみに読むとして、まずタイトルです。

 この「CK 17万 U/Lと異常高値」はどういう立ち位置になるでしょうか。
 つまり、通常の(usualな)皮膚筋炎と比べてCKが高くなる病型なのでしょうか。
 また、もしそうならそうなる理由(機序や病態生理)があるのでしょうか。
 すごく興味を引くタイトルです。
 あ、(いつものありがちな)単に「盛るだけ」って可能性もありますね。
 つまり、「28年たってようやく診断!」とかそういうのとそう変わらないということです。
 「俺の戦闘力53万!」みたいなやつです。


 はい、よくわかりませんね。
 では本文を見て参りましょう。

 30歳の男性が1ヶ月くらいの経過でどんどん脱力が進行していきます。
 筋痛もひどそうです。
 そして入院するのですが、ヘリオトロープ疹と著明な全身性浮腫を認めるとの記述があります。要約のところに浮腫は「上下肢に」との記載もあります。
 肝心の浮腫の発症様式や時系列が書いてありません。
 浮腫は緩徐進行なのか、突然なのか、一夜にして浮腫んだのか。
 一番大事と思えることが、あと一歩痒いところに手が届かず。。
 まあきっとかなり急激なんでしょうね(浮腫の鑑別に入れとかないとと思っちゃいました)。


 経過は、CK上昇(横紋筋融解)による急性腎不全としか記述がありませんでしたが、腎不全への介入をして無事寛解。
 浮腫も改善し再発もないそうです。
 加えた治療は、ステロイドパルス、ステロイド、IVIg、タクロリムス。

 「CKが顕著に高い筋炎」「浮腫を伴う」ということについての考察ですが、サイトカインストームということでした。
 ただ、せっかくの症例なのにちょっと考察が甘いなあと思いました。
 おそらく稀であるということと、まだ確立されていないってことなんでしょうね。
 今後の知見集積が望まれます。


 1例目は以上です!
 では2例目に参りたいと思います!!!


■p605 可逆性後頭葉白質脳症、血栓性微小血管障害症ならびに腎機能障害で発症した高血圧緊急症の経過中に尿細管間質性腎炎を認めた1例


 さて「どこ引き」2例目です。
 今回もまた、まずタイトルを見てみましょう。

 あ。
 私これわかりましたよ。
 タクロリムスあるいはシクロスポリンのせいでしょこれ。
 タクロリムスとかのせいで「可逆性後頭葉白質脳症」は起きるし「血栓性微小血管障害症」も起きます。
 「血栓性微小血管障害症」では腎障害は起きますし、また、腎不全の患者に「可逆性後頭葉白質脳症」は起きやすいです。
 また、「可逆性後頭葉白質脳症」は昔で言う高血圧脳症の病像を取りやすいですよね。
 タクロリムスやシクロスポリンは、血圧を上げます。
 腎障害そのものでも血圧は上がります。
 あとは「尿細管間質性腎炎」ですが、この病態は、推定されることはままあっても、“確定“されることは臨床的に多くないですよね。
 そしてタクロリムスやシクロスポリンは尿細管障害を起こします。

 文献(https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/127/6/127_6_433/_pdf)によれば、「シクロスポリンは、血管内皮細胞障害(血栓性微小血管障害)、尿細管機能障害や尿細管間質線維化も引き起こす」とあります。

 はい。タイトルでもうわかりましたね。
 これはタクロリムスかシクロスポリンによる薬剤性病態を描いた論文です。

 では中身を見て参りましょう。


 なんと!
 患者さんは生来健康!!!
 タクロリムスかシクロスポリン使ってない!!
 外れた!!
 そうか......そうですよね。
 薬剤性の尿細管間質性腎炎(TIN)なら、薬剤性ってタイトルに書くよな......。
 なんか軽薄なケースカンファレンスと勘違いしちゃった。
 テンション間違えちゃった。

 実際の症例は、タイトルに含まれたエッセンスがすべて発症した興味深い症例でした。
 嘔気、心窩部痛、頭痛が出現し、持続するので精査。
 血圧の著明な上昇(214/142 mmHg)、腎機能障害、脳CTで脳幹部の低吸収がいきなり判明。
 すごい病歴ですね。
 後からわかるのですが、実は抗SS-A抗体が陽性で口腔唾液量低下からおそらくシェーグレン症候群があり、それによるTINだとされました。
 ステロイドで治っちゃいました。
 シェーグレン症候群の患者の血圧や腎機能は注意しようと思いました。


 以上です!
 では3例目に参りたいと思います!!!


■p613 APRVにより致命的な肺胞出血から救命し得たBCR-ABL1融合遺伝子陰性非定型慢性骨髄性白血病の1例


 さて「どこ引き」、3例目のケースです。
 このタイトルは、わからない人にはわからないというやつです。
 特に、「APRV」と「非定型慢性骨髄性白血病(aCML)」でしょう。
 「APRV」はこの論文のキモになると思います。

 なぜわかるって?
 「APRVにより」って書いてあるからです。
 他のことがキモになるなら、こういう書き方はしないです。
 なので、この後本文を読むときも「APRVがどう関わっていくか」ということをしっかり追っていくべきなのです。

 もう1つ難しいのは「非定型慢性骨髄性白血病」です。
 これは実は、「非典型な」「慢性骨髄性白血病」という意味ではありません。
 「非定型慢性骨髄性白血病」という固有名詞です。
 「異例な病像をとった慢性骨髄性白血病の1例」という意味ではないのです。
 ちなみに「非定型慢性骨髄性白血病」というのは、「慢性骨髄性白血病」ではないです。
 「非定型慢性骨髄性白血病」は、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍に分類される腫瘍なんです(WHO分類)。


 では本文を見てみましょう。

 53歳男性、2ヶ月くらいの経過で疲労感が増強し、精査したら白血球61,000 /μL、Hb 8.0 g/dL、血小板 51,000 /μLとなっていて、芽球は17%でした。
 紹介されて骨髄検査をしましたが、芽球は4.2%にとどまり、20%未満だったため急性白血病ではありませんでした。
 非定型慢性骨髄性白血病と診断され、ヒドロキシウレアで様子を見たようですが白血球は下がらず、シタラビンなどを使った化学療法に入ります。
 しかし第13病日に喀血し、急な酸素化増悪に陥ります。
 CTを加味して、DICに伴った肺胞出血と診断されます。

 その後から今回の話題である「APRV」が出てきます。
 原病が不安定な段階で、酸素化が改善した時点の第28病日に抜管をするも、ここでその直後にまた大喀血をします。

 ここが臨床的ポイントでした。
 つまり、APRVをやめたからまた喀血してしまったと考えたのです。

 もちろん喀血(肺胞出血)している理由は原病であり原病由来のDICです。
 しかし、喀血(肺胞出血)をおさえ込んでいたのはAPRVだったかもしれないということなのでした。
 そのあとはAPRV下での徹底した原病治療でした。
 VAP(人工呼吸器関連肺炎)やARDSなどの合併症も乗り切り、原病は見事寛解。
 APRV、つまり人工呼吸器の離脱をなんと第105日に達成できたという症例でした。


 APRV=気道圧開放換気(airway pressure release ventilation)のことで、人工呼吸器管理の1つのモード/やり方と考えればよいです。
 APRVは、ARDSの治療法として一世を風靡しましたね(そういうこと言わない)。

 APRVは、「高い圧のCPAP + 短時間の圧開放」と短くまとめられます。
 つまり、高い気道内圧を維持しつつ、圧開放中も内因性PEEPをかけるため、肺胞が虚脱しがちな病態に向くというわけです。

 考察はまさにこの点を論じられ、つまり「肺胞出血とAPRV」というまとめになっていてとても良質です。
 唯一コメントするとすれば、APRVが素晴らし過ぎる感じに書かれていたので、APRVのデメリットもちゃんと記述すべきだったと思います。

 非常に予後の悪い腫瘍 + 肺胞出血で人工呼吸器管理、という、かなりの劣勢にあって見事治癒したという「やったぜ」的症例の記述なのでした。


 以上です!
 では最後4例目に参りたいと思います!!!(もう息切れ)


■p622 ジアフェニルスルホンによる薬剤性メトヘモグロビン血症の3例


 さあ今月の「どこ引き」、4例目のケースです。
 え、あ、これまたしても1例報告ではありませんね。
 「3例報告」です。
 なるほどそう来ましたか。
 タイトルの解題としては、全くシンプルです。まんまです。
 ジアフェニルスルホン(DDS)というのは、いわゆるダプソン(レクチゾール®︎)です。
 そしてダプソンによる薬剤性メトヘモグロビン血症って有名ですよね。
 ということは、よほど異例か、啓発かでないと、論文にする意味がありません。


 では本文にいきましょう。
 いきなりちょっと笑ったのは、「我々は同一年に3例ものDDSによる薬剤性メトヘモグロビン血症を経験した」ということを強調していることでした。
 1年に同じ施設で3例。
 しかも全部皮膚科からの処方だそうです。

 これきっと......同じ医者?(そういうこと言わない)


症例1は、67歳の男性でベーチェット病の皮疹に対してというのが適応。既往に骨髄異形成症候群とありますが、これ骨髄異形成症候群に伴うベーチェット症状ってことじゃん...…(そういうこと言わない)。
 8ヶ月前からプレドニゾロンと共にDDSが皮膚科から処方されていました。

 症例2は、69歳男性。骨髄異形成症候群に伴うSweet病に対して3ヶ月前からDDSを処方されていた。

 症例3は、40歳男性。潰瘍性大腸炎に伴う壊疽性膿皮症に対してDDSが4ヶ月前から処方されていた。

 と、まあ全部保険適応外なことはさておき、なんというか面白い病気をたくさん診られて羨ましいなと思っちゃいました(違。


 症例1、2はおそらく骨髄異形成症候群がらみだし、症例3の壊疽性膿皮症も一般には血液腫瘍とかなり親和性のある病態です。
 このDDSを処方した皮膚科医の信念みたいなのがあって好きです。ダプソンって本当に汎用性広いですもんね。

 この論文は新潟大学医歯学総合病院からの報告なのですが、さすが新潟を支える基幹病院です。
 興味深い症例がたくさん集まってくるのでしょうね。
 新潟大学医歯学総合病院に非常に関心がわきました。

 あっ。ところでメトヘモグロビン血症ですが、これは臨床的にいうと「手で測るSatモニターでは低く、動脈穿刺で動脈血液ガス分析をするとちゃんとSaO2が保たれている」という感じで気づかれます。

 実は私も診断したことがあります。
 全身性エリテマトーデス患者にやはりDDSが処方されて生じたケースでした。懐かしい。

 DDSを処方したあとは、指のでいいからSatを定期チェックしておくとよいですね。


 今月は......以上です!
 長丁場、お疲れ様でしたね。私が。


 第4波が来ますが頑張りましょう!!
 飛沫、まだ見えないんですか?
 飛沫が見えるようになったら大丈夫です。


 ではこの辺で!


國松淳和 先生の書籍案内

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『Kunimatsu's Lists ~國松の鑑別リスト~』の楽しみ方


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