見出し画像

呼吸器感染症よもやま話(4)

[第4回]肺炎(pneumonia)と肺臓炎(pneumonitis)

倉原 優 くらはら ゆう
国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内科

(初出:J-IDEO Vol.1 No.4 2017年9月 刊行)

2つの肺炎

 呼吸器科では,毎日肺炎を診ます.しかしそのすべてが感染症というわけではありません.たとえば私が執筆時点で受け持っているだけでも,感染症以外だと過敏性肺炎,放射線肺炎,特発性器質化肺炎の患者さんが入院しています.いやあ,実にいろいろな肺炎が存在するものです.
 肺炎には「pneumonia」と「pneumonitis」の2つがあります.たとえば過敏性肺炎は「hypersensitivity pneumonitis」で,特発性器質化肺炎は「cryptogenic organizing pneumonia」です.あらら,同じ肺炎なのに英訳が2つあるのですね.どういうことでしょう.
 pneumonitisはあえて「肺臓炎」と区別してよぶこともあります.そのため,過敏性肺炎はその昔過敏性肺臓炎とよばれていました.過敏性肺炎以外では,放射線肺炎(あるいは放射線肺障害)は放射線肺臓炎,薬剤性肺障害は薬剤性肺臓炎とよばれていました.現代になって,これらの用語は「肺炎」に統一されており,「肺臓炎」という言葉を使うことはほとんどなくなったのです.そのため日本では,「pneumonia」も「pneumonitis」もまとめて「肺炎」と表記するようになってしまったのです.
 これら2つの用語の違いは,私たち呼吸器科医にとってはとても重要なことなのです.こだわりといいますか,何といいますか.料理人にとっての濃口醤油と淡口醤油くらい,匠がこだわる純然たる差があるのです.


ここから先は

2,208字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?