國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.02
國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.02
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 医長
今回は2019年の8月号です。
特集は「最新のニューロパチー診療」
末梢神経はほんといつも悩むので、今号は保存版となりそうです。
私は今までも、今後使えそうな号は別の書棚にアーカイブして、いつでも読み直しができるようにしていました。
目新しいtermとしては、「抗MAG(myelin-associated glycoprotein)抗体関連ニューロパチー」でしょうか。
これ、ご存知でしたか?
IgMパラプロテイン血症を伴うニューロパチー患者の約半数で、IgM-M蛋白がMAGに対する抗体活性を有し、これを抗MAG抗体関連ニューロパチーと呼ぶそうです。
リウマチ因子みたいですね。
慢性進行性の経過で四肢対称性、遠位優位の脱髄所見を伴って感覚運動性ニューロパチーの表現型を取るのが特徴。
通常、「感覚>運動」で、深部感覚障害による運動失調がみられるものの、運動障害自体は軽度。
そうなると鑑別はCIDPということになりますよね。
治療には抵抗性だそうです。
なんか診たことある気がします......(過去に診た患者さんが頭に浮かんだ)
こうやって疾患概念の確立がされると、過去に診断がつかなかった・分類できなかった患者さんをふと思い出して、「これだったじゃん!」って思うことがたまにあります。
さて今月の「どこ引き」です。
どこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略です。
今月も2例ありました。
さっそく見ていきましょう。
■p1583, 心不全をきっかけに発見された遺伝性ATTRアミロイドーシスの1例
國松なら「あー、アレね」って思うでしょって思うじゃないですか。
私、全然わかりませんよ!! なんですかTTRって!!
いやあ、頭に入りにくかったです。
FAPはわかります。家族性アミロイドポリニューロパチー。
それのトランスサイレチン型ということらしいです。
さあ、
青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ
で塗り分けるんでしたね!
手順は、とにかくまず青の蛍光ペンを持ってください。
そして「症例」のところを読みます。
どうやらこの77歳の女性は、3年前から断続的な下痢があり、高血圧もないのに心拡大・心肥大があったそうです。
そして3年の経過で増悪、心不全で入院します。
下腿浮腫、頸静脈怒張、起立性低血圧、うっ血肝を認め、著明な左室肥大があるという評価になりました。
しかし、高血圧や大動脈弁狭窄がありません。
こうした、usualな心不全と比べて若干奇異、そして起立性低血圧のような自律神経症状もあるということからアミロイドーシスを想起したそうです!すごいですね!
そして、下痢もあったことから当然下部消化管内視鏡を行います。しかし粘膜生検からはアミロイド沈着はなかった。
次は心カテで心筋生検。
ここからはアミロイドーシスが証明されました。
以上ですかね、青蛍光ペンは。
面白いなと思ったのは、この3年の経過の下痢、慢性下痢は、アミロイドーシスによる自律神経症状(機能性の下痢?)だったということです。
慢性下痢を、IBS以外でそういう生理学的な視点でみたことがあまりなかったので新鮮でした!
経過は、この後TTR型FAPの遺伝子を調べようという展開になっていきます。
心筋生検でアミロイドの証明、そしてそれを熊本大へ送り免疫染色を実施。
そこでTTR抗体陽性となり、それでTTR型FAPの遺伝子を調べようということになったようです。
ほぼ誰もが「ふーん」「へー」となるであろうムードが漂う中、最終パラグラフに著者らのナイスな主張がまとめられていました。
ATTRアミロイドーシスを正確に診断する意義として、以下の1)~3)があるそうです。
1)肥大型心筋症との鑑別ができれば、マネジメントの差別化ができる
これは、肥大型心筋症ならβ遮断薬などが有効である一方、ATTRアミロイドーシスでは伝導障害が強いので、もし間違ってβ遮断薬が使われてしまうと徐脈を増悪させてしまい突然死のリスクが増えてしまうということ。
2)ATTRアミロイドーシスは肥大型心筋症と比べて予後が悪く、それを本人や家族に説明できる
肥大型心筋症は10年生存率が90%。
ATTRアミロイドーシスは5年生存率が30~40%。
3)遺伝性ATTRアミロイドーシスには新規治療がある
TTR4量体の解離を抑制するタファミジスメグルミンが病状進行を予防するために使用されているとのこと。つまり、特異的治療がある!
診断に3年かかったことを反省しているようですが、全然反省しなくていいでしょ......すごい。
■p1591, 髄液中に好酸球が認められた、くも膜下出血を合併した好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の1例
さて今月の「どこ引き」の2例目です。
タイトルが......
長い。
こちらの症例は、比較的スッキリです。
まず呈示されるのは、78歳の女性が典型的なEGPAを発症した経過です。
歩行障害の精査の過程で、無症候のSAHが見つかったということです。
それが入院理由。
ANCAは陰性ですがRFはしっかり陽性。CRPも陽性で、末梢血の好酸球もしっかり増多。
末梢神経障害も証明され、また下腿の紫斑も認められそこからの皮膚生検で血管炎あり。
臨床症状を合わせてもEGPAとしてはかなりの典型です。
髄液検査をしているのですが、それは......SAHがあるからでしたっけ?
内科学会誌の「今月の症例」のいけないところが出てしましました。
検査をした理由や経緯の記述が乏しいんですよね。
検査結果を並列に記述してしまっているんです。
こういう記述方式を当たり前としてしまうと、「とにかく全部検査する」が正しいことになってしまいます。
(この記述方式は、内科認定医や総合内科専門医の試験で課される症例サマリーの形式......)
頭部CTでのSAHが先に見つかったそうなので、それで髄液検査をするのは良いでしょう。
髄液検査の目的は…...私だったらしないけどSAHの証明かな。
うーんよくわからない。
記述は、「髄液細胞の増多はなかったが、髄液細胞診を実施し好酸球が認められた」というものでした。
私だったら、細胞診を出すかな(いや、出さない)。
大学とか、大きな病院の神経内科の先生方、髄液検査をすればほぼルーチンで細胞診を提出しますよね。
そういうルーチンを持っている先生でないと、普通やらないと思うんですよね。
というわけで、EGPAで髄液中に好酸球が出るかも、という(私にとって)貴重な症例でした。
末梢血中の著明な好酸球増多は危ないんですよ。あいつらは「虎」です。
EGPAのような病気になっていると、増多した好酸球は活性化しています。つまりIL-5が増えています。
活性化した好酸球は、組織傷害活性のある好酸球顆粒を放出します。こいつが臓器障害を起こします。
具体的には、血管が攻撃されてしまい脆弱になってそれで出血したのではとの考察です。
治療はステロイドパルスが行われていました。
あれ、好酸球がそんなどっさりある状態でステロイドパルスってやって良いんでしたっけ?
微妙な雰囲気の中、今日はこの辺で!!
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