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呼吸器感染症よもやま話(7)

[第7回]肺炎の診断に聴診器は本当に必要なのか

倉原 優 くらはら ゆう
国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内科

(初出:J-IDEO Vol.2 No.2 2018年3月 刊行)

聴診器の出番

 タイトルだけ読まれると,すぐさまゲンコツが飛んできそうな気がしますが,どうぞ拳を医局のデスクの上に置いて,落ち着いてください.
 私は呼吸器内科医なので,普段から聴診器を使っています.マイ聴診器を2本持っていて,患者さんを診たら胸の上にペッタンコしています.そんな聴診器バカの私が36歳を迎え,ふと思ったことがありました.「肺炎の診断に,聴診器は本当に必要なんだろうか……?」
 循環器系はともかく,呼吸器系では聴診器が絶対に必要な場面というのは1つしかありません.喘息発作です.そんなバカな! COPD増悪や急性間質性肺炎でも必要だ! ニューモシスチス肺炎のときも珍しい音が鳴るってどこかに書いてあったぞ! 気胸はどうするんだ! そういう意見も出てくると思いますが,そんな細かいポイントは抜きにして,まずは喘息発作になぜ必要なのか説明しましょう.
 喘息発作は,残念ながら診断技術が向上した現代でも診断が難しいのです.その原因は,他覚的所見が少ないからです.発熱もなく,胸部X線写真での異常もなく,CRPや白血球も上昇しません.聴診しかないのです.聴診して,wheezesを聴取することが一番「使える」のです.

※ 気道過敏性試験や呼気一酸化窒素濃度(FeNO)で診断することもできますが,喘息発作中にそりゃあ罰ゲームってもんですぜ.しかも一部の施設にしか置いていなかったりします.

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