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基礎から臨床につなぐ 薬剤耐性菌のハナシ(42)

[第42回]Acinetobacter baumanniiの耐性機序


西村 翔 にしむらしょう
兵庫県立はりま姫路総合医療センター感染症内科


前回はA. baumanniiの病原因子を解説しましたが,今回からはA. baumanniiの耐性機序をみていきます.まずは最も重要な耐性機序であるβラクタマーゼです.

AmpC

 A. baumannniiも多くのenterobacteralesやPseudomonas aeruginosa同様,染色体にampC遺伝子をコードしており,Acinetobacter-derived cephalosporinaseの頭文字をとってADCと呼ばれます1).ADCには多数のvariantがあり,現時点(2023年9月30日,以下断りのない限り,現時点とは同日を指す)で,blaADC-343まで343ものvariantが報告されています2).A. baumanniiのADCがenterobacteralesのAmpCやP. aeruginosaのPDCと大きく異なるのは,AmpRを欠くために誘導性がない,という点です1).ADCは定常状態でも低いレベルで産生されていますが,その上流により強力なプロモータとして機能するISAba13)やISAba1254)などの挿入配列を獲得して高レベルでADCを産生するようになると,第3世代セファロスポリン系のMICが耐性域まで上昇することになります.また,原則的にAmbler分類でclass Cですので,第3世代セファロスポリン耐性に関与するのですが5),(PDCがそうであったように)Ω-loopや,βラクタム系抗菌薬のR1およびR2側鎖結合部位周囲に変異が起こると,ADC-68のように一部のvariantはカルバペネムの加水分解能を獲得したり6),あるいはextended-spectrum AmpC(ESAC)の状態となり,セフタジジム高度耐性,セフェピム耐性を示すvariantも存在します7).また,ADC(注;正確にはADC-30)の過剰産生が,A. baumanniiの治療におけるkey drugであるスルバクタム耐性の一因となることも報告されています8).なお,稀ながらも染色体性のADCではなくプラスミド性AmpCの獲得事例も報告があります9,10).

ESBL

 A. baumanniiでもESBLの獲得事例が報告されています.A. baumanniiでは,(P. aeruginosaと同様に)PER型やVEB型,さらにはGES型のESBL遺伝子獲得株の検出頻度が高く11),一方でenterobacteralesで大流行しているCTX-M型や従来のTEM型やSHV型の検出頻度は低くなっています11).ただし,CTX-M-15型やCTX-M-2型といったenterobacteralesで頻度の高いCTX-M型の報告は稀ですが,CTX-M-2 groupに属し,CTX-M-2型から3ヵ所アミノ酸置換が起こったCTX-M-115型に関しては,ほぼ独占的にA. baumanniiで確認されています12).このCTX-M-115陽性株はロシアや米国,ドイツ,ブラジル,フランスなどで検出報告12,13)があり,これらの起源は,イタリアはじめ地中海諸国でアウトブレイクを起こした(Pasteur式MLST分類の)ST78あるいはIC(international clone)6系統に属するクローンであることが明らかになっています14).

OXA-型カルバペネマーゼ

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