國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.17
國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.17
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長
今回は2020年の11月号の「何読み」です!
今月の内科学会雑誌の特集は、「COVID-19」です。
ああっ、来ましたこのテーマ。タイムリーですね。
この学会誌が出たばかりの時は、特集の内容が少し話題にはなりました。
ただ、COVID-19の臨床知見は日進月歩であり、弊noteがリリースされるのはすでに12月の上旬。新型コロナウイルスの感染者・重症者の数も、日々動きがある時期かと思います。
現場〜最前線にいる先生であればあるほど、そしてCOVID-19の知見を必要としている先生であればあるほど、不断のアップデートに勤しんでおられると思います。
その意味では、このような「内科学会」という広域の分野を包含する学術団体が「COVID-19」をテーマにする意味は、そうした最前線の先生のためというより、
① COVID-19の診療に、直接には or 多くは関与しない内科医にも知ってもらって底上げする(平均点を上げる)
② 非会員にも無料で読めるようにする
という意義があると思います。
しかしです。
① は知りませんが、現時点で ② のようにはなっていません(会員以外読めません)。
実は内科学会雑誌は、1年経つとアーカイブされ、無料でPDFで読めるようになります。
そうです、つまり「どこ引き」で扱う「今月の症例」なども、1年前以上前のものであれば誰でも読めるんです(弊noteももう1年以上経ってますから読み直したい人はぜひ原文PDFを読みながらどうぞ)。
ただ、今回の「特集 COVID-19」が1年後に無料で読めて何の意味があるでしょう。
大好きな内科学会雑誌。好きだからこそ言います。
全然だめですね。
誰か、
「これ、今回は無料で公開しようよ!」
くらい、なぜ言わなかったのか。残念でなりません。
......記事で印象に残ったところを紹介します。
P2348の対談のコーナーです。当然テーマはCOVID-19ですが、内科医の役割を議論した内容でした。
メンバーの1人はなんとあの尾身先生です!(私は、実は尾身先生とfacebook friends ❤️)
ここで紹介するのは、対談最後にある、尾身先生による内科医へのメッセージ(内科医に期待すること)の部分です。
恐らく,今も臨床現場では,どこまでレムデシビルやヘパリン,ステロイドを使えばよいのかということで悩まれる場面も多いのではないかと思いますが,共通のスタンダードあるいは共通の検査項目のようなものを確立していければと思っています.nが多ければ多いほど統計学的な意味は出てきますが,現場の先生方は手一杯の状態なので,誰かが指揮官として「同じようなプロトコール,同じようなフォーマットでやってください」ということをクルーズ船のときにできていれば,日本はもっと論文も書けたし,実際に治療の効果も評価できたのではないかと思います.先生方は今も既にされていると思いますが,現場の先生ができないときには,疫学者等誰かがスタディデザインをつくるといったことを ―先生方は現場で忙しいのに欲張りで申し訳ないですが,ない物ねだりで,そのうえで言わせていただくと,そういったことをしていただけるともっと良いのではないかというのが私のお願い,そして,期待です.
(日内会誌2020年11月号,P2362より一部を抜粋)
誰か! 「指揮官」! よろしく!!
「臨床の先生も研究して論文くらい書けよな」とかいうプレッシャーはやめてください!!!
さて、
暗い雰囲気の中、全国の「どこ引き」ファンはお待たせしました。今月も「今月の症例」がありましたので参りましょう!
2例ありました。
あ、
ちなみに「どこ引き」というのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、弊note「何読み」の中の名物コーナーになっております(再確認)。
「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、
青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ
で塗り分けるのでした。
まず1例目です。
■p 2378 本態性血小板血症に続発した二次性骨髄線維症の経過中に外傷性脾損傷を合併した1例
ではいつものように最初にタイトルをみます。
「骨髄線維症」が「本態性血小板血症に続発」することは、あります。
そして、「外傷性脾損傷を合併」とあります。この雑誌は内科学会雑誌なので、普通は内因性を扱う......というか外傷はあまりメインに扱われません。
一方で、本態性血小板血症〜骨髄線維症というのは脾腫を伴います。しかもかなり大きいです。その文脈で、「外傷性脾損傷を合併」と来るわけです。そりゃ脾臓デカけりゃ損傷もするか? みたいな感想を持ちます。
さあこの時点ではどんな内容かは予想がつきませんが、あまりトリッキーな内容ではないだろうという印象を持ちました。
はい、そんな気持ちで読み始めましょう。
患者さんは、88歳のすでに本態性血小板血症の診断がついてフォローされている患者さんです。転倒して近医で採血をしたところ貧血があり、エコーで腹腔内出血があったため緊急搬送。外傷性脾損傷と診断されます。
あっ、受診までの経過と診断は以上なんです。これだけ。
この論文は、ここからの議論がすごく深いんです。
循環を安定させた後、血管造影をしたところTAE(経カテーテル動脈塞栓術)の適応となりTAEが実施されました(下終動脈本幹をコイル塞栓)。それで止血はうまく行きました。
しかし徐々に汎血球減少が進行してきたのです。ここは正直、私は意外に感じました。注目ポイントだと思います(この時点での進行する汎血球減少の鑑別ってあがりますか?)。
はい、そこで第23病日に骨髄生検が施行されます。
すると、完全に骨髄線維症になっており、基礎疾患が本態性血小板血症であることをふまえて、「本態性血小板血症に続発した二次性骨髄線維症」と診断されました。
残念ながらこの後は、血球減少に歯止めが掛からず、好中球減少からも離脱できず、そして感染を制御できず第39病日に死亡されました。
病理解剖が行われたのですが、組織学的に脾臓は広範な壊死に陥っていました。TAEによると思われるものでした。
なるほどー。壊死。そりゃそうだよなあ。
いえいえ。それでは少し浅いです。
この症例では、骨髄線維症が生じていましたが、これはすごいことです。本来、造血のメインの場は骨髄なのですが、それが繊維化してしまうわけですから。
造血巣である骨髄が繊維化してしまうと。骨髄以外の場所で造血するようになります(これを髄外造血といいます)。その「場所」の1つが脾臓で、脾臓での髄外造血が進行すると、脾臓がデカくなるのです。
つまり、デカい脾臓は、害悪なのではなく仕方がないのです。
そこでもし、造血を頑張ってくれてるそんな脾臓が壊死してしまったらどうなるでしょう。はい、造血できなくなりますね。すると血球が減ります。ああ言えた。
ではTAEはやってはだめなのか。
そうではないですよね。失血死してしまいます。血を止めるには、場合によっては太い動脈を詰めなきゃならない。
あれ? 太い動脈詰めると、脾臓が壊死しちゃう。
よっしゃ、じゃあ細い動脈だけ......はい血が止まりません。
つまりこのケースの課題は、「脾動脈止血 vs 脾臓造血能温存」という構図(ジレンマ)だったんですね。さすがにタイトルだけはそこまで読み解けなかったです。
つまりこの論文は、読む価値があったということになります。
実際には、止血操作に関して様々な議論が展開されていました。super selectiveにTAEをしたらいいかというと、今回は脾臓脈の下終動脈本幹の破綻であったため難しかったのではとの結論。
外科的止血についても考察され、ダメコン的にガーゼパッキングはどうだったかという話や、脾摘してもいいけど造血能どうする、って話など。
パーツパーツはそこまで稀だったり目新しいものはないのですが、議論が非常に深まるテーマでした。
こういう題材を論文化したことは、本当に素晴らしいですし、これを評価し掲載した内科学会も素晴らしいと思います。
個人的なクエスチョンは、普通の人(骨髄線維症などではない人)でも、脾臓外傷でTAE止血をすることはあるだろうけども、つまり脾臓に造血を頼っていないような人でもTAEをやったら、いくらか/partialには壊死に陥り脾機能は落ちるものなのでしょうか? というものです。
まあ、ほとんどは、代償できてしまうのでしょうね。
脾動脈の比較的本幹を詰めたTAE後の患者の血球数に注目すると面白いかもしれません。すごく興味あります。IVRの先生、一緒に研究しませんか。
ところで、今回は外傷がテーマなのですが、脾臓がデカくなると、当たり前ですがデカいがゆえに、なんというか当たり判定が広くなるので外傷を受けやすくなるということらしいです。
内科医でも、脾腫があるとわかっている人の高齢者の転倒は、軽くても注意ねってことなのでしょう。
1例目は以上です!(今回は調子いい)
では2例目に参りたいと思います!!!
■p2385 腎移植後, preemptive therapyを行うもCMV網膜炎を発症した抗CMV IgG D+/R+の1例
さて「どこ引き」2例目です。今回もまずタイトルを見てみましょう。
これを一読して「へぇ」とかなる先生、います?
このタイトルはなかなかに専門性高いですよね。あまり見慣れないですよね。特に「D+/R+」とか。
これはCMV IgGのstatusの表記になっていて、
D:ドナー
R:レシピエント
で、つまり「サイトメガロウイルスのIgG抗体が、ドナーで陽性/レシピエントで陽性」という意味です。
こういう「D+/R+」みたいなのを、セロステータスと呼びます。
はい、当然腎移植となれば免疫を下げるわけですから、一番まずいのは「D+/R−」で、想像すればわかりますが爆烈な確率でCMV感染症を発症します。
が、「D+/R+」であってもまあドナーは陽性なわけで、無治療では20%くらいの発症率だそうです。
臨床的には20%というのは全く許容できないので、「そりゃウイルス再活性起きるでしょ → やばいでしょ」のような状況においては、まだウイルス感染症が発症する前から抗ウイルス治療を行うことがあるのですが、これをpreemptive therapy(先制治療)と呼びます。
ここから先は、私はさすがに読み解けず本文を読むことにしました。症例報告になるくらいですし、タイトルですでに「行うも」とあるので、予想としては腎移植におけるCMV網膜炎予防にpreemptive therapyは普通効くはずなのに......という気持ちが汲み取れます。
......タイトル解題長かった!
では本文です。
といっても、ここまでで要点はほぼ読み解けていました。やはり、セロステータス「D+/R+」では、preemptive therapyをしたらCMV網膜炎の発症頻度は本来非常に低いそうです。
つまりポイントは、予想通り「ちゃんと治療したのにどうして」というものでした。
論文自体は、CMV網膜炎とその周辺の診断・治療の軽いよきレビューになっていますので「移植?全然関係ない」と思われる人でも勉強になると思います。
次の2点が議論されていました。
1.アジア人ではMMF(ミコフェノール酸モフェチル)の濃度は高くなる傾向がある
2.CMVに対する免疫には、CMV IgG抗体だけでなく、CMV特異的T細胞の役割も関係する
もう一度言いますが、この論文のポイントは、「D+/R+ならpreemptive therapyすれば普通CMV網膜炎起きないのになぜ起きた?」ですから、まず1つ目として、MMFが効きすぎていたのではという議論になっています。
興味深かったのは、コーカソイドやアフリカンアメリカンに比べて、アジア人ではMMFの薬剤代謝が悪く、つまりアジア人ではMMFを減量した方がいいという考え方でした。
白人と比べれば実に20~46%減量した方がいいという考えもあるらしく、できるだけ個別に考え濃度モニタリングが重要という考察でした。
もう1つが、CMV特異的T細胞です。CMV IgG抗体があっても(プラスでも)、CMV特異的T細胞が低かったり機能が落ちていたらCMV網膜炎起きちゃうかもね、という考察でした
臨床的にこれを何によって近似するかと言えば、なんと末梢血総リンパ球数でした。正直なんじゃそれと脱力しましたが、そうらしいです。
ステロイドを使用していて、免疫抑制がかかってくるとリンパ球はほぼ全例で減少していきます。
T細胞のプロファイリングが、もっと日常診療レベルでできたら、免疫が低い患者のリスク見積もりの質が上がるのになあと思いました。
最後に、そういえばこの論文のタイトル「腎移植後, preemptive therapyを行うもCMV網膜炎を発症した抗CMV IgG D+/R+の1例」ってちょっと変じゃないですか?
「抗CMV IgGセロステータスD+/R+の腎移植後, preemptive therapyを行うもCMV網膜炎を発症した1例」
みたいな方が(まだ)良くないですか?
まあいいや。
今月は以上です!
コロナのバカが猛威を奮っているようです。
コロナに先制はされましたが、逆転サヨナラ勝利しましょう!
では!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?