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微生物検査 危機一髪!(31)


[第31回]Normal floraの意味

山本 剛 やまもと ごう
大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)
大阪大学医学部附属病院感染制御部

(初出:J-IDEO Vol.6 No.3 2022年5月 刊行)

微生物検査は感染症診療には欠かせない臨床検査で,検査材料から微生物を検出して,微生物の種類を同定し,感受性を追加することで感染症の診療と治療に役立てられています.そのため,どの検査室でも微生物検査結果は早く正しく報告することを目標として日常業務を行っています.正しい結果を報告するには,検査前プロセスや検査中プロセス,検査後プロセスのどの過程においても良質であることが求められますが,質が劣っている検査が行われた場合には,少なからず患者が不利益を被る可能性があります.微生物検査の質を落とす1つの要因に“常在菌:Normal flora”というユビキタスな条件が存在します.微生物検査技師は鏡検や培地上には視えても結果報告書には視えない相手と会話をしながら検査をしています.今回は“常在菌:Normal flora”にスポットを当てて検査結果の報告について考えていきたいと思います.

1.検出される微生物の臨床的意義

微生物検査室に提出される検体は,頭の上から爪の先までの範囲で,表皮から内臓まで様々な検体種が存在します.なかには髄液のように検出された微生物がすべて原因微生物となるものから,尿のように周囲からの汚染により検出された微生物が原因微生物かどうかの判断が必要なもの,糞便のような常在菌が多数存在する部位から病原微生物だけを選択的に検出し原因微生物を特定するものまで存在します.つまり,検査報告書に記載している菌名すべてが原因微生物ではなく,常在菌の存在が複雑に絡んでいることが要因で治療方針が変わったりします.提出される検体すべてが無菌材料であれば業務も楽ですが常在菌が多く存在する材料は微生物検査技師にとっては,ストレスにもなるものの,逆にやり甲斐にもなります.

2.正しい検体採取が必要です

正しい検査結果には正しい材料採取が必要ですが,残念なことに「喀痰」という名の唾液や固形便での糞便が提出されることが多々あります.本来そういう検体が提出された場合は,検査開始前にrejectすべきですが,検査の中止や検体の採り直しの相談をしても「とりあえず,そのまま検査お願いします」と,患者の不利益や検査スタッフの無駄な労力を提供することについて考慮されないこともあります.正しく採取されない検体の増加は,検査担当者の仕事モチベーションを低下させる要因の1つにもなります.

3.原因微生物の特定には“常在菌:Normal flora”の否定が必要

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