基礎から臨床につなぐ 薬剤耐性菌のハナシ(41)
[第41回]Acinetobacter属の臨床像と耐性機構④
西村 翔 にしむらしょう
兵庫県立はりま姫路総合医療センター感染症内科
(初出:J-IDEO Vol.7 No.6 2023年11月 刊行)
前回は,A. baumanniiの病原因子のなかで,外膜蛋白,繊毛,リポ多糖について解説しました.今回はその続きで,その他の病原因子について議論していきます.
莢膜/菌体外多糖
莢膜および菌体外多糖は,細菌表層の細胞壁/外膜のさらに外側に保護層として形成されています.この莢膜は,免疫原性を有する細菌表面の構造物と宿主免疫機構との相互作用を制限することで免疫機構からの回避,抗菌薬や消毒薬への抵抗性,乾燥への耐性1),その他運動性2)やバイオフィルム形成3)にも関与します.莢膜を欠損させた株では病原性が低下する4)一方で,莢膜の過剰産生によって抗菌薬耐性度や病原性が増強すること5)が報告されています.A. baumanniiでは現在までに100を超える多様な莢膜抗原型が確認されています1).たとえば,低濃度のクロラムフェニコールやエリスロマイシンに曝露すると莢膜合成が促進されることが知られており,これは(遺伝子変異を伴わない)可逆性の莢膜産生遺伝子(capsule locus=K locus)の発現増加によると考えられており,この莢膜産生はBfmRS系5)もしくはOmpR-EnvZ6)と呼ばれるTCS(two-component regulatory system)による制御を受けています.また,莢膜構造のなかで菌体外多糖の糖鎖構造の分岐点を失活するような変異が起こることで,マクロファージによる貪食を回避するようになり病原性が増強することも報告されています7).一方で,抗菌薬(メロペネム)に曝露することで(メロペネムに耐性化するとともに)莢膜を失う変異を獲得することも報告されていますが,これは細菌が進化しているというより抗菌薬によって傷害された結果と考えられます8).抗菌薬に対するこれらの反応性が,菌種一律なのか,菌株特異的なのか,それとも莢膜型特異的なものなのかはまだよくわかっていませんが,一定の菌集団(主として非莢膜産生型の毒性の弱い集団)内に莢膜産生型の強毒性株の亜集団が存在し,特定の転写制御因子によってこれらの亜集団の増加減少が制御されており,結果的に菌集団の表現型が変化することが報告されています9).
分泌装置
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