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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.16

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.16
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長


 今回は2020年10月号の「何読み」です!

 今月の内科学会雑誌の特集は、「咳嗽の臨床」です。

 学会誌で「〇〇の臨床」なんてタイトルっていうのはなかなか素晴らしいですよね。
 目次の見出しにあまりトリッキーなものはなく、内容も王道です。
 Editorialの中に、最近國松も大注目の「cough hypersensitivity syndrome」が触れてあるのに(文献もちゃんとついているのに)、本編ではほとんど触れられずわずかな記載にとどまるのみ(p2139-40)でした。
 このテーマは、1個で独立させてもよかったと思います。
 これをしなかったというのは、あまりこの概念をよく思わない重鎮がいるってことかな? あはは

 内科学会雑誌も、COI開示がわんさかあるような教授様たちによる「かわりばんこ制」ではなくなるのを今後期待したいです!

 本編で「おっ」と思ったのは、「感染後咳嗽」の「病態」のところ(p2110-11)でした。

 “かぜの後の咳嗽では、一般にカプサイシン咳感受性が亢進しており、咳受容体のC線維の興奮が関係しているのであれば、抗コリン薬が治療薬になると推測される。“

 ほう。

 “また、咳受容体からの刺激は、求心性知覚神経を介して、咳中枢やその上位にある大脳皮質に影響する。求心性知覚神経過敏や一部中枢神経の関与(中枢性鎮咳薬が効果があると推測)が想定されており、postviral vagal neuropathy, sensory neuropathic cough等の概念がある。”

 ほうほう。
 はい、よき確認になりました。
 しかし読みにくい文章ですね......



 続きまして、

 前回の「何読み」にはなかった「どこ引き」に参りましょう!
 全国の「どこ引き」ファンはお待たせしました。

 「今月の症例」は今回は2例ありました。では見て参ります。
 今月の「どこ引き」の始まりです!

 あ、

 ちなみに「どこ引き」というのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、弊note「何読み」の中の名物コーナーになっております(再確認)。

 「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、

:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ

で塗り分けるのでした。

 まず1例目です。


■p 2168 咽頭淋菌感染症に合併したと思われる急性心膜炎の1例


 ではいつものように最初にタイトルをみます。
 「淋菌感染」と「心膜炎」がタイトルに含まれています。ということはこれはDGI(disseminated gonococcal infection:播種性淋菌感染症)です。
 なぜかというと、淋菌といえば、普通「おしも(尿道、子宮頸部、あるいは直腸)」か「おくち(咽頭など)」が感染のprimary siteになるはずです。
 それ以外のところにも同時に病巣感染が起きると、これは播種したと考えてこの病型をDGIと呼びます。皮疹や関節炎が有名です。

 淋菌で、心膜炎......?
 これは知らないです。

 はい、そんな気持ちで読み始めましょう。

 島根県立中央病院循環器科の症例です。2週前に性風俗店を利用した41歳男性が島根県立中央病院の救急外来を受診しました。

 あの、

 はい、あの。これ結構まあまあプライバシー暴露してませんか。大丈夫ですか島根県民の皆様(違

 東京都新宿区の症例ならいいと思うのですが(違、ちょっと気をつけられた方がいいのではないかと思いました。

 下肢に印象的な有痛性の紅斑が散在していて、関節炎はなかったようです。
 吸気で増強する胸痛。
 胸膜を浸潤する肺炎や悪性疾患、胸膜炎、もしくは心膜炎などが浮かびます。

 採血では、肝酵素上昇などない、ストレートな急性炎症所見が爆裂しています。
 心電図では......これすごい。全胸部誘導+I、II、III、aVFでSTが上がっております。

 急性心膜炎が疑わしいです。

 風俗店利用の問診って、そんな瞬殺で得られたのかな? 臨床医としてはこれが関心事です。

 経過は、入院となりNSAIDで様子を見られました。しかし良くならないので、第3病日淋菌やクラミジアのうがい液検体によるDNA測定(PCR法)を提出した上で、セフトリアキソン + アジスロマイシンが投入されます。

 ここが怪しい!
 きっと第3病日に初めて風俗利用が分かったのでは??
 初日にわかっていれば、初日に検査して治療開始したと思うんですよね......

 だからこれは、性的な接触歴を聞く前の事前確率がいかに高いか、あるいは(それに付随することかもしれませんが)日頃からsexual contactを聴くのをいかにルーティン化しているか、だと思うんですよね。

 島根県立中央病院の近くに風俗のメッカみたいなところがあるのなら、毎晩でも救急外来の初期研修医が訊くかもしれませんね(いやこれマジで)。

 なので、事前確率がいかほどかというところに興味を持ちました。

 経過は無事(?)淋菌が陽性。セフトリアキソンも効いて問題なく治っています。

 ちなみに「淋菌 / DGIで心膜炎」というのは、少なくとも本邦では既報がないらしいです。本例で、なぜそこまで淋菌が心膜に親和性があったかは不明ですが、DGIとしてのbacteremic stageの段階で心膜にinvolveしたことは間違いなさそうです(あるいは免疫反応のいち表現型が心膜炎だった → つまり心膜に淋菌がいるわけではない)。
 第4病日にはさらにST上昇がはっきりしていて、臨床と合わせて心膜炎は間違いなさそうでした。

 個々はそんなに珍しくない症候ばかりなのですが、組み合わせが珍しいという。実は私が新宿の感染症で有名な病院に勤務していたとき、DGIは疑診例だけで確定例は診たことなかったのでこの症例はびっくりしました。

 ケースカンファレンス()とかツイッター()とかでやたらと「DGI」を鑑別にあげたがる先生に注目してみてください。大概、米国のテキストや問題集で勉強したことある人ばかりです。あっ。

 ......えっと、久々なので空気間違えたかも!! 毎回かもしれませんが微妙な空気の中1例目を終え......気を取り直して2例目に参りたいと思います!!!



■p2176 自己抗体や梅毒抗体が偽陽性になったパルボウイルスB19(PVB19)感染症の1例


 さて「どこ引き」2例目です。今回もまずタイトルを見てみましょう。

 あれ!? あれれ?

 「PVB19感染症」では「自己抗体や梅毒抗体が偽陽性に」なりえますよ?

 それでは今日はこの辺で!

 いやそれはさすがにまずいかぁ〜......
 ではこれを読んでみてください。
 この症例の、病歴部分です。

症例
 患者:47歳,女性.
 主訴:発熱・手指の浮腫.
 現病歴:X年11月,次男の通う小学校で伝染性紅斑が流行していた.X年12月28日(第1病日),39℃の発熱を自覚した.Aクリニックを受診して解熱薬を処方され,一旦解熱した.第3病日,膝関節痛が出現し,再度解熱がみられた.第10病日,手指・顔面・下腿に浮腫が出現した.第13病日,当科外来を受診した.同日,原因不明の炎症反応高値に対して精査目的で入院となった.


 いやこれ成人PVB19感染症でしょ普通に......
 あと、この後の経過を読んでも皮疹の記述がないので、「皮疹はなかった」というケースにしたいのでしょうが、これきっと皮疹ありましたよ。

 成人のPVB19の皮疹はその目でみないと見逃がすんですよ。薄〜い、淡〜いレース状の網状の皮疹で、四肢や体幹にみられます。

 「熱もあるし、ただの発赤じゃない? 紅潮してるだけじゃん?」

 みたいなものがそうなんですよ。

 実際のPVB19感染症は、この症例よりももっとバリエーションが広くて非常に興味深いですよ。

 あまり馴染みのない先生は、この症例報告で、特に病歴や身体所見のところだけでもしっかり読んでおくといいと思います。

 後学用の資料を2つ紹介しておきますのでどうぞ!


Hiroshi Oiwa, et al. Clinical findings in parvovirus B19 infection in 30 adult patients in Kyoto. Mod Rheumatol. 2011; 21(1): 24-31. (PMID:20680378)
<コメント>
 非常にクリニカル、つまり臨床で有用な情報が満載の論文です。これ1本熟読すれば、成人PVB19感染症の臨床像がしっかり掴めると思います。


國松淳和,他.外来でよく診るかぜ以外のウイルス性疾患 ─自らウイルス性疾患の診療を実践するために.日本医事新報社,2018年.
<コメント>
 第2章の5「パルボウイルスB19」というところがあります。本書全体がよくあるウイルス疾患の診断・鑑別の勉強になると思います。

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