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基礎から臨床につなぐ薬剤耐性菌のハナシ(26)

[第26回]β-ラクタマーゼでは語り切れないAchromobacter属のハナシ

西村 翔 にしむら しょう
神戸大学医学部附属病院感染症内科

(初出:J-IDEO Vol.5 No.3 2021年5月 刊行)

 前回はBurkholderia cepacia complex(BCC)について解説しました.今回はマイナー非発酵菌シリーズ第3弾,Achromobacter属です.

┃Achromobacter属の分類および同定

 Achromobacter属はオキシダーゼおよびカタラーゼ陽性のグラム陰性桿菌です.Achromobacter属は1923年には確立されていましたが【1】,基準種となるAchromobacter xylosoxidansは1971年に日本の薮内英子先生らによって慢性中耳炎の症例の耳漏検体から分離されました(1923年にBergeyらによってAchromobacter属が提唱された際の基準種はA. liquefaciensでしたが,その後の検討で培養での同定が困難であったことから,現在の基準種はA. xylosoxidansとなっています)【2】.A. xylosoxidansはその後Alcaligenes属に分類された時期もありますが1998年には再びAchromobacter属に再分類されています.2020年1月3日時点でAchromobacter属としては19菌種が同定されており,うち15菌種が臨床検体から分離されています【3,4】.臨床検体から分離される頻度が最も高い菌種は基準種であるA. xylosoxidansですが,その他の菌種の分離頻度には地域差があり,A. xylosoxidansに次いで分離頻度の高い菌種は,米国ではA. ruhlandiiである一方で,ヨーロッパではA. dolensやA. insuavisとなっています【4】.
 Achromobacter属を生化学的性状に基づいて分類すると,しばしばPseudomonas aeruginosaやBurkholderia cepacia complexなど他の非発酵菌と誤同定される場合があり【5】,さらに,仮にAchromobacter属と判明しても,生化学的性状のみでは菌種レベルまでの同定は困難とされます【6】.最も正確な菌種レベルでの同定法はnrdAなどのハウスキーピング遺伝子の解析か,あるいはMLST(multilocus sequence typing)です【6,7】.MALDI-TOF MSは他の非発酵菌と属レベルでの分類は可能ですが,データベースに登録されている菌種の種類が限られているために,菌種レベルでの同定率は現在のデータベースであると50~70%程度に留まります【8,9】.

┃Achromobacter属の臨床像

 Achromobacter属の最も頻度の高い臨床像は囊胞性線維症を基礎疾患に有する患者での気道感染症です.囊胞性線維症患者が急性感染を起こすと,呼吸機能悪化のリスクが増加し【10】,一方で慢性感染を起こすと肺移植や死亡のリスクが増加します【11】.さらに近年の検討ではBCC同様に囊胞性線維症患者間でのヒト-ヒト感染を起こす可能性が示唆されています【12】.なお,囊胞性線維症の患者で肺移植後にAchromobacter属による感染/定着を起こすことが,移植後の予後を悪化させるかどうかはよくわかっていません【13】.
 囊胞性線維症以外での臨床像の報告はケースシリーズに限られます【14~【17】が,悪性腫瘍や腎不全,固形臓器移植後など免疫抑制下の宿主が相対的に感染を起こしやすく,ほとんどの症例で先行する広域抗菌薬投与歴が確認できます.病型としては肺炎と血流感染症の頻度が最も高く,その他腹腔内,尿路,中枢神経系,皮膚軟部組織/創部感染,縦隔炎,感染性心内膜炎,眼内炎や(発見された当初の症例のように)中耳炎などの報告があります【4,17】.多くの症例は院内発症であり,血管内カテーテルを筆頭とするデバイスに関連した感染が多くなっています.また,水性環境を好んで増殖するために,静注製剤【18】や透析液【19】の汚染から院内感染が起こった事例が報告されています.

┃Achromobacter属の抗菌薬耐性機序

 Achromobacter属における内因性の主要な耐性機構は,OXA-114-like型の染色体性β-ラクタマーゼと,多剤排出ポンプです[表1].Ambler分類class Dに属するOXA-114-like型は,piperacillinを効率的に加水分解でき,かなり程度は下がりますがticarcillinに対する分解能も有する一方で,(OXA型であるにもかかわらず)oxacillinに対する分解能は確認されていません【25】.注意が必要なのは,加水分解能を有することがすなわち高度耐性を意味するわけではなく,実際この検討内でのpiperacillinのMICは1~4μg/mLに留まっています.ceftazidimeやcefoxitin,cefepimeなどの広域セファロスポリン系は基質とならず,imipenemに対する親和性が低いために分解能(Kcat/Km)も低くなっています.また,tazobactamやclavulanateなどのβ-ラクタマーゼ阻害薬による阻害効果はありません.

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