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國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.25

國松淳和の「内科学会雑誌、今月何読みましたか?(何読み)」 Vol.25
國松 淳和 くにまつ じゅんわ
医療法人社団永生会南多摩病院
総合内科・膠原病内科 部長


 今回は2021年7月号の「何読み」です!

 今回の内科学会雑誌の特集は「日常診療と悪性リンパ腫」です。
 素晴らしいテーマです。
 パッとみたところ、とりあえず一般内科医が、血液内科の教科書や総説論文を読み込まずに一通りしっかり押さえておくには必要十分な内容だと予想します。

 そう......読み込みたいのですが......

 コロナ。

 お前は一体なんなんだ。。
 そりゃそうだよな。増やしたいよね。
 コロナだって増えたいよな。

 ということで今回あまり時間がありませんでした。
 すべての記事がお勧めです。


 ......なんとも言えない不穏な雰囲気の中、「今月の症例、どこに線を引きましたか?(どこ引き)」に参りましょう!!

 ちなみにどこ引きというのは、「今月の症例、どこに線を引きましたか?」の略で、「何読み」の中のメインコーナーになっております。

 「どこ引き」は、(私の場合)青とピンクの2色の蛍光ペンで、

青:この症例に関する重要点・私が重要と思ったところ
ピンク:この症例とは直接関係ないけれど、一般論として重要な点・別の症例などに役立ちそうなところ

で塗り分けるのでした。

 今月号はなんと、4例(まじか)ありますので、あまり長過ぎないようにまとめます。
 では、1例ずつ見て参りますね。


■p1460 pembrolizumab使用後に免役性血小板減少症を発症した1例


 ではいつものように最初にタイトルをみましょう。
 はいはい、来ましたね。
 え? 分かりますよね?
 「何読み Vo.22」に続いて「免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象」(以下 irAE)がテーマですね。
 本当にこのテーマが増えてきました。

 免役性血小板減少症という言葉が出てきました。
 これ、大丈夫ですよね? ITPですITP。
 ITPの日本語訳はもう、「特発性血小板減少性紫斑病」ではなくなっています。
 大丈夫ですか? アップデートしていますか?
 あ、ちょっと言い過ぎたかもしれない。
 まだ「特発性血小板減少性紫斑病」でも大丈夫です。しかも英語の略はどちらであってもITPです。
 でも免役性血小板減少症のほうが私は好きです。なので皆さんも免役性血小板減少症(ITP)と呼びましょう。

 真面目に言いますと、「免役」が介在するということがITPで大事なんです。だからこそ、pembrolizumabという免役チェックポイント阻害薬を使用したこととITPが、予測として関連づけられるわけです。
 irAEを知ろうとして、少し勉強してみるとすぐわかるのが、「要するに自己免疫っぽいこと何でも起こるじゃん」ということです。
 なので、irAEとしてのITPのことをもし知らなくても、何となく「ああ、自己免疫で血小板下がったんね」とふんわり予測が可能です(どこ訛りかわからない喋りに今なっちゃいました)。

 ただどうでしょう。こうして学会誌に症例報告として掲載されるわけですから、何かあるはずです。
 稀なのか、注意すべき系なのか。
 はい、楽しみになってきましたね?


 では本文を見て参りましょう。


 この患者さんはすごいです。
 78歳男性の肺腺癌の患者さんで、なんと3回のpembrolizumabで寛解していました。
 すごい。
 でもこういう人がirAEを起こしやすいんですよね、確か。
 逆に言えば、irAEを起こす場合は抗腫瘍効果も高い。

 3回目のpembrolizumab投与後に血小板が下がったという経緯です。
 結局ITPと診断され、テーマはマネジメントでした。
 ステロイドではなく、エルトロンボパグ(レボレード®︎)を選択しました。

 「たった3回のpembrolizumabで寛解に至るほどに、良好な腫瘍免疫が得られている」
 「免疫系に大きな変化をもたらす可能性の少ないエルトロンボパグを使用した」
という納得できるロジックでした。

 治療もうまくいったようです。
 この症例では最終投与から1年近く経ってからの発症であり、遅発性irAEの範疇に入るようです。
 血液学的irAEというくくりでの文献考察もされてあり、良い報告でした。

 1例目は以上です!
 では2例目に参りたいと思います!!!


■p1467 診断に苦慮した全身性肥満細胞症の1例


 さて「どこ引き」2例目です。
 今回もまた、まずタイトルを見てみましょう。
 でた! 全身性肥満細胞症!
 この病気、個人的に、遭遇するの待っているんですけどほんといないですよねえ〜。いない。
 タイトルに「診断に苦慮した」とあります。
 これ症例報告の有名な枕詞です。
 ケースレポート界の「しろたへの」とか「たらちねの」です。
 えっ。つまりまあ、あまり意味はないわけですよ(語弊)。
 全身性肥満細胞症というのはかなり稀で、どの全身性肥満細胞症の事例でも診断に苦慮するはずです。そういう意味でこの枕詞に意味はありません。
ということで、おそらく単に純粋に全身性肥満細胞症の一例の経過を記述したものだと予想されます。


 では中身を見て参りましょう。

 アナフィラキシーで来て......心肺停止してるんですね。
 その目でみると、症状の中で「顔面紅潮」がありますね。
 これがhintだったかな。

 血清トリプターゼというのが重要で、このケースでも測定されて著増していました。
 問題は、これ、どうやって測るんでしょう。
 保険収載されているのかな。
 なんか、こうね。オレに測定させてくれたらもっとこの病気みつけてやるのになって感じですよね、ぶっちゃけ(何様)。

 とにかくこの論文、ムチャクチャお勧めです!
 全身性肥満細胞症かぁ。全身性肥満細胞症と聞くとNEJMのMGHケースレコードの2011年のCase9を思い出すよねアハハ(早口 & オタク口調)。

 ............2例目は以上です!
 では3例目に参りたいと思います!!!


■p1475 低Mg血症, 低Ca血症を呈したプロトンポンプ阻害薬長期内服中の腸管Behçet病の1例


 さて「どこ引き」、3例目のケースです。
 これは......タイトルだけで解くのは難しいですね。
 私は、わからなかったです。

 先に言ってしまいますが、もしタイトルだけで解ける人がいるとすれば、「PPI長期内服で低Mg血症がある」ことを知っている人だと思います。
 最近ではこの因果に関連する感受性遺伝子までわかっているそうです。
 Mgは小腸から吸収されるとかの知識も重要で、結局まあ「解剖と生理」なんですよね、臨床は。
 「低Mg血症 → PTH分泌抑制 → 骨吸収の促進抑制 → 二次的に低Ca血症の増悪」という理屈が思いつきます。
 生理学大事だ〜。でも今回の症例でタイトル解題は難しいと思います。

 では本文を見てみましょう。


 まず腸管ベーチェットはあったようです。これが基本的には全体の病態に影響していたようでした。
 メッセージとしてはやはり「PPI長期内服で低Mg血症がある」というもの。
 Mgを日常診療では測定しないだろうから......というニュアンスが端々にありました。
 まあたまには測りますけどね......。

 3例目は以上です!
 では最後4例目に参りたいと思います!!!(もう無理)


■p1482 脾臓低形成を認めた硬膜外膿瘍合併肺炎球菌性髄膜炎の1例


 さあ今月の「どこ引き」、4例目のケースです。
 これは〜......うーん勘繰ってしまうな。
 すごく自然なタイトルだからです。
 どこだ......どこがポイントなんだ......。
 あるとすれば「(脾摘後は当然だけど)低形成でも脾摘と同じくらいの免疫不全になるよ」ってメッセージかな。

 それくらいしか浮かばない。
 では本文にいってみますか。


 やっぱり経過の特殊性などを強調したい内容ではありませんでした。
 それは考察を見れば分かります。
 考察のポイントは、脾臓低形成(容積小さい)でも重症細菌感染症のリスクになるということ、あとは予防。この2つの観点でした。
 教科書的・総説的な、お勉強論文でした。


 今月は......以上です!
 長丁場、お疲れ様でしたね。私が。


 δ株、やばいですね。
 ちょっとさすがに大変になってきました。

 「何読み」ですが、実は先月で丸2年が経っていました。
 2周年記念です!!
 すごい。

 そんなめでたいテンションの中恐縮ですが、δが収束するまで、「何読み」を一時休載させていただこうかと思います。

 このことはまだ中外医学社に言っておりません。
 世の中、どうなるか分かりませんが、皆さん、命を守る行動をお願いします!


 ではこの辺で!
 See you next time〜!


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