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抗菌薬相互作用整理BOX(31)

[第31回]押しかけ女房アゾール〜CYPの配位結合〜


山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長/北海道科学大学客員教授


はじめに

 今から20数年前,職歴からクリプトコッカスによる髄膜脳炎を疑われ長期療養されていた患者さんがいました.長期でフルコナゾール(FLCZ)を服用していましたが,状態が落ち着いたら中止するものの,しばらくすると意識レベルの低下とてんかん発作を起こすため,抗てんかん薬を併用しつつFLCZが再投与されるという治療が何回か繰り返され,その患者さんにはFLCZは中止できない薬と認識されていました.
 そのころはミカファンギンもまだ発売されておらず,FLCZ,イトラコナゾール(ITCZ),フルシトシン(5-FC),アムホテリシンB(AMPH-B)が抗真菌薬のラインナップでした.抗てんかん薬も,現在では古典的抗てんかん薬と呼ばれるフェニトイン(PHT),カルバマゼピン(CBZ),フェノバルビタール(PB),バルプロ酸(VPA),ゾニサミド(ZNS)などが主な治療薬として使用され,いわゆる新規抗てんかん薬はまだ市場に出回る前の時代でした.
 今となっては懐かしいですが,その患者さんはCBZを定期服用しており,その当時は業務としてTDM解析を立ち上げた時期でもあったため,定期的に血中濃度を測定していました.普段のトラフ値は有効治療域(4~12μg/mL)の下限より少し高い6μg/mL前後で推移していましたが,FLCZを併用すると有効治療域上限の12μg/mLを超えてくることがよくあったので,その都度,調節した投与量を担当医に提案していました.
 今回は,FLCZとCBZの相互作用について整理したいと思います.

相互作用のメカニズム

 CBZは,1957年に合成され,1963年にスイス,イギリスにおいて抗てんかん薬として発売され,我が国では1966年に上市された古くからある抗てんかん薬の1つです.
 精神運動発作の第1選択薬であり,単純および複雑部分発作にも有効です.その作用は過剰なナトリウム活動電位の抑制1)であり,三叉神経痛にも適応を有しています.
 現在でも,成人の部分てんかんの第1選択薬の1つであり,小児では全般性強直間代発作以外の全般発作で悪化の報告があるものの,部分発作には第1選択薬の1つにあげられています2).
 体内に吸収されたCBZの主要な代謝経路は,尿中排泄の約40%を占めるアゼピン環がエポキシ化されたのち不活性体のジオール体へ代謝される経路,尿中排泄の約25%の芳香環の水酸化の経路,尿中排泄の約15%のカルバモイル側鎖の直接抱合の経路の3つが知られています1)[図1].このうち,エポキシ化される過程で主にCYP3A4が関与するとされます.

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