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呼吸器感染症よもやま話(33)


[第33回]アリケイス®導入物語

倉原 優 くらはら ゆう
国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科

(初出:J-IDEO Vol.6 No.4 2022年7月 刊行)

吸入アミカシン(アリケイス®)とは

この連載で吸入アミカシンの話を書くのは2回目になりますが,そのときはまだアリケイス®が発売されておらず,院内で導入する上で何が必要かということもわかっていませんでした.当院での処方も軌道に乗ってきたため,再度この薬について触れておきます.
 アリケイス®は,標準治療を6ヵ月行っても菌が陰性化しない肺MAC症を対象としています.そのため,初期治療で用いることはできません.まずは,リファンピシン+エタンブトール+クラリスロマイシンなどの併用治療を行い,それでも菌が陰性化しないときに用います.喀痰培養陰性化率を約3割改善することはできますが【1】,夢の薬というほどのパワーはありません.ちなみに,菌の陰性化というのは喀痰抗酸菌塗抹ではなく培養陰性化のことを指します.M. abscessusなどの迅速発育菌に対しても効果が認められていますが,現状保険適用はありません.
 アミノグリコシドの吸入薬はトブラマイシン(トービイ®)が販売されていますが,囊胞性線維症の病名がついていないと処方できませんので,現状日常臨床ではほぼ使わないといっても過言ではないでしょう.注射薬のアミノグリコシドは副作用の懸念があるため,何ヵ月も投与することが難しく,抗酸菌診療医の間では「上限6ヵ月」というのがセオリーとなっています.ネブライザー製剤にすることで,バイオフィルムを通過させる高濃度アミノグリコシドを肺に届けつつ,副作用を減らすということが可能になりました.
 さて,ハードルばかり上げると処方したくなくなるかもしれませんが,処方実現に向けた注意点を記載したいと思います.

その1:高額療養費制度

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