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微生物検査危機一髪!(16)

[第16回]カルテが見られない

山本 剛 やまもと ごう
神戸市立医療センター 中央市民病院臨床検査技術部

(初出:J-IDEO Vol.3 No.6 2019年11月 刊行)

 微生物検査は感染症の確定診断や治療の適正化のために行われるが,感染症以外の患者で鑑別診断を目的として提出される.医師がどのような目的で微生物検査を出すのか依頼時に情報を収集することは検査を合理化するうえで必要である.微生物検査に必要な情報は,医師がオーダー時に検査目的や検出してほしい微生物などのインプット情報を検査システム上で確認する,検査者がカルテ記事を閲覧し確認する,または医師と直接ディスカッションすることで収集ができる.しかし,医師とのコミュニケーションが疎かでオーダー情報を十分に確認せずに検査が処理されていることを聞く機会があるが非常に残念にも感じる.微生物検査にカルテ情報が必要なのか,必要ではないのか今回は微生物検査とカルテについて述べる.

1.検査に関わる情報収集

1)依頼情報のコメント入力はなぜ必要か?
 検査の依頼情報として以下の内容について患者情報を取得する必要がある[表1].

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[表1]患者情報のインプット

① 患者属性:氏名,年齢,性別,材料,採取時間,採取部位
 たとえば,氏名のない検体は患者の識別が困難なため検査が開始できない(本連載第7回,第8回参照).
 年齢の記載は好発年齢(例:髄膜炎の起炎菌でHaemophilus influenzae type bは小児患者に多いが成人では稀であるなど)となる微生物の特定に役立つため必要である.
 性別や材料は解剖学的な理由により検査結果が異なる可能性を含んでいるため必要である(例:尿検体は男女で採取方法が異なるなど).
 採取時間や採取部位は必須ではないが,採取時間については検体の保管状態の確認に必要(検体の保管条件が悪いと微生物が死滅する可能性がある)で,採取部位は分離菌情報を検討するうえで必要である.

② 患者情報:主訴,身体所見,基礎疾患,内服歴
 患者情報の取得はフォーカスとなる臓器の特定に必要な情報で,感染臓器の特定は臓器特異性の高い微生物が検出された場合の照合に必要となるからである.通常はカルテ上のS(subjective data,主観的情報)やO(objective data,客観的情報)に入力されている内容であるが,たとえば急な腰痛をともなう排尿時痛および発熱がある場合は急性腎盂腎炎の可能性があるため,混濁した尿が採取されてきた場合は大腸菌をはじめとするcommonな原因微生物の特定に役立つ.つまり外来患者で“排尿時痛ありUTIの可能性あり”と記載がある場合,大腸菌の菌量が少ない場合でも原因微生物として扱い,同定感受性検査を実施するかどうかの判断材料となる(本連載第8回参照).また,基礎疾患により感染リスクが高まり好発する原因微生物がある(例:脾摘による液性免疫低下に伴う肺炎球菌感染症やステロイド内服による細胞性免疫低下に伴うノカルジア症)ため,分離された微生物の臨床的意義づけに役立つ.

③ そのほかの情報:検査目的,目的となる微生物,緊急性の有無,投与(予定)抗菌薬情報
 検査目的は感染症の確定診断のために検体を提出しているため必要なのか,感染症が鑑別診断に入るため除外診断目的に検体を提出しているため必要なのかほしい情報である.微生物検査室は毎日大量な検体を処理しており,どの目的で検査を提出しているかの把握は検査効率を上げるために必要な情報となる.
 抗菌薬を前投与している患者は培養結果に影響があるので,グラム染色時に菌の形態変化がある場合や塗抹陽性培養陰性となる検体の判断に大きく影響するため情報が得られるほうがよい.

2)検査オーダーと検査法の選択

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