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呼吸器感染症よもやま話(37)

[第37回]エタンブトールはなぜ視神経症を起こすのか

倉原 優 くらはら ゆう
国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科

(初出:J-IDEO Vol.7 No.2 2023年3月 刊行)

そもそも作用機序は?

 エタンブトール(EB)は,結核か非結核性抗酸菌症のいずれかにしか用いられません.たぶん.特にMycobacterium tuberculosisとM. avium complex(MAC)にとって重要な薬剤となります.いずれの菌に対しても,強い抗菌活性に期待するだけでなく,「耐性化を作らない」という恩恵が得られ,肺MAC症では,マクロライド耐性を防ぐ効果があります【1】.
 抗酸菌に対するEBの作用機序は,細胞壁のアラビノシルトランスフェラーゼの阻害です.細胞壁にはペプチドグリカンに共有結合したアラビノガラクタンと,さらにミコール酸がくっついて複合体を形成しています.抗酸菌におけるペプチドグリカン,アラビノガラクタン,ミコール酸の割合は,それぞれ1:1:16の割合となっています.EBは,アラビノガラクタンの重合を抑制することができるとされています.
 ではなぜEBが視神経症を起こすのでしょうか.網膜神経細胞における主役はカスパーゼ3です.EBによってこれが活性化されると,アポトーシスが誘導されるため,これが視神経症の引き金になるとされています.また,EBは,亜鉛とキレートを作ります.亜鉛イオンというのは濃度依存的にカスパーゼ3を不活性化する盾のような役割ですが,EBによってこの盾が剥がされてしまい,これもやはり視神経症へ至るリスクとなります[図1].

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